核心にシュートを!BACK NUMBER
“あの”山王工業戦は現在の日本代表を予言していた? W杯開幕前に…『SLAM DUNK』で学ぶ「現代バスケットボールの新潮流」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/08/25 11:10
8月25日からいよいよバスケW杯が開幕。映画『THE FIRST SLAM DUNK』とも共通する3つのポイントを抑えて日本代表の予習をしよう
そして、忘れてはいけないのが、現在のトム・ホーバスヘッドコーチ(HC)の目指すスタイルそのものが「3Pを多く放つバスケット」であることだ。
ホーバスHCは2021年の東京五輪で女子日本代表を銀メダルに導いた指揮官だ。
アメリカ出身ながら日本語を使って厳しく指導する姿はお茶の間でも話題になった。彼が東京五輪後に女子から男子のチームのHCに転身している。そんな指揮官が東京五輪後に就任して、日本代表の3Pがいかに増えたのか。わかりやすい例を2つ挙げよう。
以前のフリオ・ラマスHCに率いられた東京五輪における1試合平均の3Pシュートを放った数と、今回のW杯直前に有明アリーナで行われた3つの強化試合の平均とを比べると以下のようになる。
◆東京五輪:28本
◆W杯今大会直前:43.7本
1試合あたり実に15本以上の増加だ。
個人の選手データでも変化は顕著だ。ちょうど1年前に日本代表に選出され、Bリーグの2022-23シーズンのMVPに選ばれた河村勇輝を例に見てみよう。彼が代表に呼ばれる前の2021-22シーズンと、呼ばれた後(にホーバスHCに3Pを積極的に打つように求められた)の2022ー23シーズンとで1試合の3Pの数を比較すると以下のようになる。
◆2021-22シーズン:2.8本
◆2022-23シーズン:8本
実に1人で5本以上も増やしているのだ。
なぜ代表チームの3Pの数が飛躍的に増えているのか?
では、ホーバスHCはなぜ、3Pを多く打つように選手たちに求めるのだろうか? そこには、近年のバスケ界の潮流が関係している。
現代バスケでは、ゴール下のエリアにあたる「ペイントエリア」(※ゴールの真下からフリースローラインまでの色がついたエリア)からのシュートと、3Pシュートのどちらか以外はあまり打たないスタイルに変わっているからだ。
これはバスケの得点パターンの膨大な統計を分析した結果、ゴールから近くて成功率が特に高いペイントエリアと、選手の技術向上によって以前より成功率が上がった3Pシュート以外は、「得点効率の悪いシュート」=「なるべく打つべきではない」と考えられるようになったからである。
実際、ホーバスHCが3Pを多用する方針を持って作り上げた女子の日本代表チームが東京五輪で銀メダルを獲得するという結果を残した。そのため現在の男子のチームのなかでも多くの選手がホーバスHCの求めるバスケに積極的に取り組み、現在のようなチームが出来上がったのだ。