野球クロスロードBACK NUMBER
「監督の指示に忠実に従う=優れた選手ではない」慶応と広陵、両強豪校を分けた甲子園での“わずかの差”の正体とは?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNanae Suzuki
posted2023/08/17 17:01
慶応高の1番を打つ“スピードスター”丸田湊斗。広陵高戦の初回には独自判断で三盗を決めるなど、その快足ぶりを発揮
「シンキング・ベースボール」が活きた広陵高戦
このスタンスは、野球を楽しむためにレベルアップを目指す「エンジョイ・ベースボール」と双璧を成すモットー「シンキング・ベースボール」にも結び付く。
前者が「有形の力」だとすれば、後者は「無形の力」と言える。
森林はこのように説いていた。
「『目に見えづらいところで勝負しよう』と選手に伝えています。ただ打つんじゃなくて、『次はこう考えているから、この球を狙っていこう』とか、思考のなかで相手より少しでも上回ることができれば、いい成果に結びつくことが多いような気がします」
広陵との試合こそ、まさにこれだった。
3回表までに3-0。慶応義塾は序盤から主導権を握っていたものの、4回以降は立ち直った広陵の高尾から追加点を奪えずにいた。終盤に突入しても145キロを計測する相手エースを打ちあぐねていながら、それでもチームの思考は常に前向きだった。
キャプテンの大村昊澄が、高尾攻略の糸口をこのように明かす。
「最初は外中心のボールを想定していて、『外から中に入ってくる変化球を振らないように』『アウトコースのストレートはしっかり踏み込んで打とう』と決めていたんですけど、途中からインコースが増えてきたんで考え方を変えて。『逆にインコースを張ってしっかり打っていったら、相手は投げるボールがなくなるんじゃないか』って」
この発想の転換が実を結んだのが、タイブレークとなった延長10回だ。