ボクシングPRESSBACK NUMBER
「イノウエをPFPの“王”にしたい」「どちらも“1位”に」井上尚弥の順位をめぐって前代未聞の意見が…伝統ある米リング誌の会議で一体何が?
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byNaoki Fukuda
posted2023/08/05 11:04
スーパーバンタム級の初戦で王者フルトンに圧勝した井上尚弥
リング誌のPFPランキング審議が始まると、やはりクロフォードの見立て通りの展開となった。話し合いはまずアンソン・ウェインライト氏(英国)がPFPも含めたランキングの骨組みを作り、パネリストたちが賛成、反対意見をチェーンメールで述べていく形で進行する。そこでウェインライト氏が説明したクロフォード、井上の順位付けは、大方の意見を代弁するものだった。
「両方のパフォーマンスが非常に印象深いものだったが、私にとって決定的要因は、クロフォードとスペンスがそれぞれ(PFPランキングで)3位と4位にランクされて直接対決に臨んだことだ。フルトンはランク外だった」
以前のコラムでも指摘した通り、PFPは「体重が同一と仮定したら誰が一番強いかを決めるランキング」ではなく、「全階級を通じて誰が最も優秀なボクサーであるかを経歴と表層上の戦力評価で定めるランキング」。いわばレジュメの比べ合いであり、ハイレベルの比較では対戦相手の質が大きく関わってくる。いくら派手なKO勝ちを収めても、格下を蹴散らしての勝利では大抵の場合、大きな評価は得られない。
繰り返しになるが、井上、クロフォードのボクシングはどちらも素晴らしく、昨年8月以降は一度もリングに立っていないウシクを追い抜いたと感じさせるに十分だった。あとはこの2人の優劣だが、そのパフォーマンス自体が甲乙つけ難いとすれば、公平か不公平かはともかく、対戦相手の格に判断が委ねられてくる。
井上とクロフォードの評価はフルトン、スペンスの比較に姿を変え、そうなるとやはり群雄割拠のウェルター級で3冠を制したスペンスがどうしても上になる。スーパーバンタム級で複数の難敵を破ってきたフルトンも実力者だが、井上戦前の時点でPFPでは10〜20位くらいが相応だったろう。
一方、スペンスは過去4戦ではヨルデニス・ウガス(キューバ)、ダニー・ガルシア、ショーン・ポーター、マイキー・ガルシア(すべてアメリカ)とビッグネームを破ってきている。その強豪を完膚なきまでに叩きのめしたクロフォードの勝ち星の価値が認められたのは自然の流れといえよう。
「日本人パネリストも“バド”に投じた」
今回は大方のパネリストがウェインライト記者の意見に同意し、大きな波乱はなく1位クロフォード、2位井上、3位ウシクという順番で固まっていった。
筆者もまたその順位に異論なし。日本人としては唯一の選定委員である私が同意していることを、リング誌の公式X(旧ツイッター)に投稿された「日本人パネリストも“バド(クロフォードの愛称)”に票を投じている」という途中経過を見た時点ですでにご存知だった熱心なボクシングファンも少なくないのではないか。
ただ、そういった流れの中でも、最後まで井上を1位に推した選者もいなかったわけではない。アジアのボクシング、軽量級への造詣が深いダグラス・フィッシャー編集長(アメリカ)は敢然と“モンスター”をトップに据えていた。