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“ダウン経験ゼロ”あの井上尚弥が苦しんだ日…それでもなぜ倒れない? 元世界王者が語る“衝撃的ディフェンス力”「普通の選手だったらもう無理」 

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日比野恭三

日比野恭三Kyozo Hibino

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2023/07/22 17:00

“ダウン経験ゼロ”あの井上尚弥が苦しんだ日…それでもなぜ倒れない? 元世界王者が語る“衝撃的ディフェンス力”「普通の選手だったらもう無理」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

ダウンを知らないモンスター。敵がなぜ倒せないのか、そこには確たる理由がある

「距離感が微妙にズレるだけで強いパンチは打てなくなります。あの比嘉との試合、『この距離で、この足の位置取りなら強いパンチは打てない』とわかっていたから、井上はわざと打たせていたんです」

 ボクサー同士の距離感には相性の良し悪しがあり、互いに向き合って構えた瞬間に感じられるものだという。言い換えれば、実際に対峙するまでわからない。

井上が“やりづらそうだった”試合

 距離感のせめぎ合いにおいて井上が苦しむ様子を見せた試合は多くないが、内山は'19年11月のドネア戦をその一つに挙げる。

「ドネアも距離感がすぐれている。だからこそ、毎回、同じパンチで倒すんです。ストレートを打ちにいったところにフックが来る。そうわかっていても食らってしまう。井上もやりづらそうでしたね」

 タイミングよく踏み込まれ、距離を詰められた場合に次の“壁”となるのが、ブロックやスウェーなど、相手のパンチを防いだり避けたりする技術だ。

「ブロックよりもスウェーのほうがいい。ブロックだと、相手はサンドバッグを打つのと同じ感覚でリズムよくパンチを出せますから。スウェーでかわすと、(拳が流れるぶん)次のパンチを出すまでにワンテンポ遅れる。スキが生まれやすくなります」

 この点に関して、井上の技術はどうか。

「もちろんブロックはしっかりしていますし、目(反応)もいい。それから、大きく動かない。常に必要最小限の動きしかしないから、避けたあとすぐ攻撃に移れます。井上はそれを足のステップでやっている。パンチをバックステップしてさばくというのは相当難しいですよ」

 距離をつぶし、パンチをクリーンヒットさせた――そこで最後の“壁”となるのが打たれ強さだ。

【次ページ】 異常なまでのタフさ

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