現役時代、ボクシング界でまだ一般的ではなかったフィジカルトレーニングに積極的に取り組んだ。その豊富な知識と経験をもとに、現在はトレーナーとして、井上尚弥の肉体強化に携わる。“激闘王”が明かすモンスターの伸びしろとは?
世界の猛者たちを次々とマットに沈めてきた。身長165cmの日本人に、なぜそれが可能なのか。
井上尚弥の強さにフィジカルの面から迫ろうと、世界3階級制覇を達成し、2020年に引退した八重樫東に話を聞いた。八重樫は現役時代、大橋ジムに所属し、同門の井上と幾度もスパーを重ねた経験を持つ。
「ボクシングという競技の特性に特化した、要はボクシングをするためにできた体の持ち主。そう言えると思います」
八重樫は説明を続ける。
「前の手と前の足を同時に動かすボクシングは、日常生活の中ではしない不自然な動きなんです。反復練習によって、できるようになる。尚弥はボクシングを幼少のころからやってきたので、そうした神経系統の伝達率が高い。それに加えて、ボクシングの練習を通して筋肉もつけてきました。ほかの競技をやらせても、たぶん人並み。スーパーマンなのは、リングに上がったときだけですね」
ただ、経験したことのない動きであっても、少し練習をすれば人並み以上のレベルにすぐに到達する。八重樫は現在、トレーナーとして井上を支えているが、勘どころを押さえるセンスのよさには驚かされているという。
その背景には想像力があるようだ。
「尚弥が(ノニト・)ドネアのマネをしたことがあるんですけど、ものすごくうまくて。見たものを感覚的にコピーできちゃう。『練習の中ではイメージをいちばん大事にしている』とも話していましたし、頭と体がちゃんとつながっているんでしょうね」
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photograph by Kiichi Matsumoto