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「ボロボロになった甲斐があった」21歳の松山英樹は“世界基準”に必死に食らいついていた…10年間で築き上げた“でっかい壁”とは?
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2023/05/31 11:01
10年前と同じオークヒルズCCでの全米プロに出場した松山英樹(31歳)。5オーバーの29位タイに終わったが、11年連続の決勝ラウンド進出を果たした
月日が過ぎるのはあっという間のようで、松山にとっての10年はあまりに濃密で、日々の積み重ねが大きく立場を変えた。
今年のオークヒルCC大会に出場した日本勢3人では最年長。後輩2人にとっては今まさに松山がでっかい壁である。
同じ東北福祉大OBでもある比嘉一貴(28歳)は、メジャーに初めて出た昨年の全英、今年のマスターズ同様、事前期間から積極的に長い時間を先輩と過ごした。
練習ラウンドのスタート時刻は後輩の方から指定したらしいから、なんとも頼もしい限り。最近はコースチェックに精を出しつつ、その日のスコアで競ってスターバックスコーヒーの“オゴリ”を賭けているそうだ。
メジャーは、とくに全米プロや全米オープンはラフが長く設定されていることでも知られている。比嘉はどうにもそこからの処理がうまくいかない。目の前の松山は深いラフに埋まった球を150ヤード以上先のピンの横まで易々と運んでしまう。グリーン周りでウェッジをフルスイングしたかと思うと、やさしく浮いたボールが意思を持ってカップに近づいていく。その様子から目が離せない。
試合に入れば、リーダーボードで「MATSUYAMA」の文字をやっぱり意識してしまう。星野陸也(27歳)も午後のプレーになった2日目に「松山さんは午前中に3オーバーで回っていて、自分も途中3オーバーになったんで『もしかしたら(決勝ラウンドで)一緒に回れるかな……』と思ったんですけど、やっちゃいました」とその後の失速が残念そうだった。
「去る者は追わず来る者は拒まず」
対して松山は「去る者は追わず来る者は拒まず」といった姿勢のようである。黙っている選手にわざわざ手を差し伸べるほどではないが、アプローチを積極的に試みたり、本気のアドバイスを求める強い意志を持った後輩には真摯に対応する様子がうかがえる。日本の若手選手にしてみれば、“世界基準”をこれほどお手軽に体感できるチャンスもない。
10年で壊すことに挑み、自らも築き上げた大きな壁。それが音を立てて崩れ落ちていく気配は、まだ感じられないと言っていい。そして、次の10年後の様子も今は大いに気になる。
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