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「あのクライフがアーセナル史上“最も美しい”天才を怒らせた日」日本のファンにも愛されたベルカンプの伝説「じつは進学校に通う秀才だった」
posted2023/05/04 17:06
text by
中田徹Toru Nakata
photograph by
Getty Images
ベルカンプは今なお語り継がれる伝説的プレーをいくつも残している(Number1071号のアーセナル特集でも取り上げた)。その華麗なテクニックの原点には何があったのか。彼の故郷・オランダで若かりし日の足跡を辿った。
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観客全員が「あいつは誰だ?」
1986年12月14日、アヤックスはローダJC相手に2-0とリードしていた。後半22分、ヨハン・クライフ監督は華奢な青年をピッチに送り出した。このときの様子を実況が伝える。
「ロブ・ビチュヘがベンチに下がり、17歳のデニス・ベルカンプがピッチに入ります。彼にとってはプロデビューマッチ。観客席にいる全員が『誰だ⁉』と叫んでいます」
前日、ベルカンプはアヤックスのA1チーム(19歳未満カテゴリー)の一員として45分間プレーし、ハーフタイムに監督から「今日はこれで下がれ。明日はトップチームに合流するんだ」と告げられ、急遽、ローダJC戦にベンチ入りすることになった。印刷に間に合わなかったのだろう、その日のマッチデー・プログラムにDennis Bergkampの名はない。
このデビュー戦後、右ウイングとして上々のプレーを披露したベルカンプに、フランク・ライカールトはシャワールームで声をかけた。
「君は何歳なんだ? 17歳だって⁉ 君には明るい未来が待ってるよ」
クライフ「相手はスピードもない老いぼれだ」
今回、オランダ人記者たちに「アヤックス時代のベルカンプのことを教えてほしい」と尋ね回ると「86-87カップウィナーズカップでのホームのマルメ戦。そして91-92シーズンがすごかった」という答えが必ず返ってきた。6-0で大勝を収めた87年2月のハーレム戦で初ゴールと初アシストを記録し、続いてマルメでのアウェーゲーム(チームは0-1で敗戦)で欧州カップ戦にデビューしたことまでが、ベルカンプの前史。センセーションは3月18日のホームゲーム対マルメで起こったのだ。
「あのシーズンは怪我人が多かった。クライフにとって、ベルカンプを抜擢するいいタイミングでした」(スティーブン・コーイマン記者)
86-87カップウィナーズカップ(CWC)ベスト4進出をかけたマルメとの第2レグ、クライフ監督はベルカンプを先発させ、こう発破をかけた。
「お前をマークするのは昔活躍したけれど、今はスピードもない老いぼれだ。思い切ってやってこい!」