甲子園の風BACK NUMBER
「第一志望は京大医学部です」灘高野球部が67年ぶりに“壁”を突破…主将が語る“意外な日常”とは?「バリバリ勉強という感じでもない」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2023/04/26 11:01
「校則がほとんどない」というほど自由な校風の灘高校(写真は野球部の3年生)。勉強も野球も選手たちの自主性を重んじている
部内の空気が変わったことで、次第に成績も伸びた。10年近く公式戦での勝ち星はなかったが、2018年から3年連続で秋季大会で1勝を挙げている。
昨夏の兵庫県大会では実に12年ぶりとなる1勝(対東灘、10―4)を挙げた。現在のチームを後押しする背景にも、その経験が大きく影響していると主将・堀坂は語る。
「公式戦で勝てた嬉しさはもちろんですが、あの勝利を学校全体で喜んでくださったんです。普段の練習も楽しいんですけれど、野球に携わっていない方も喜んでもらえて、もっと公式戦をして勝ちたいという思いが強くなりました」
小学生の頃は水泳を習っていた堀坂だが、小4から受験準備のため勉強一本に切り替えた。小6までは机に向かう時間が多かったが、「甲子園に高校野球を観に行ったこともあります」と言うように、勉強の息抜きになったのが大好きな野球観戦だった。プレーは未経験だったが、晴れて灘中に入学してから軟式野球部に入部。初めて白球に触れた。これまでは観るだけだった野球の面白さを知り、どんどんのめり込んでいった。
もちろん、勉強も手を抜かない。大阪市内から約1時間かかる通学は単語帳に目を通す時間に当てる。週に数度通うという塾での自習はできるだけ短い時間に収めるなど、野球のために効率化を意識してきた。睡眠時間を削ってまで勉強すればパフォーマンスを落ちてしまうからと午前0時には布団に入る徹底ぶりだ。
「野球は趣味。勉強もやる中で、野球はストレス発散にもなりますし、とても楽しいです」
野球部を牽引する傍ら成績も上位。「京大医学部志望」とさらっと言ってのける表情には充実感が漂っている。
「主力メンバーが抜けても安定している」
野球を楽しむ主将の姿からわかるように、灘高野球部の練習は実に和やかだ。だが、目標はあくまで「勝つこと」。春季大会に向けてバッテリー中心に失点やミスを減らすことに努めてきた。
内野手は冬場からゴロの捕球練習を強化。転がしてもらったボールを、しっかり股を割って捕球し、球際に強くなるのが狙いだ。外野手もマシンから放たれた球を背走しながら捕球するなど、守備練習を強化しつつ各々が自己のペースを維持しながらメニューをこなした。選手たちの逞しい姿に宮崎監督は目を細める。
「(早期に引退した選手がいても)弱くなるかと言われると否で、取り組みはむしろ安定しています。試合の勝ち負けに少なからず影響はありましたが、例えば逆転された場面があっても、どっしりとしているというか落ち着いている子が多いです。野球経験は少ないですが、中学から野球を始めた子で数えると、“6年目の飛躍”が大きいですよ」
この春、マウンドに上がった1年生の内藤正純(ないとう・まさずみ)は広島県の自宅から新幹線で通学するなど、学業と部活動との両立に奮闘する楽しみな選手もいる。夏までに灘高野球部がどんな成長を遂げるか今から楽しみだ。