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「甲子園で勝てなくなった。なぜ…」歴史的センバツV・山梨学院の吉田監督はいかに“再起”したか? 試合後に語った「優勝で帳消し」の真意
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNanae Suzuki
posted2023/04/02 17:01
「この優勝で少しは帳消しにしてもらえれば」。センバツを制した山梨学院・吉田洸二監督のコメントである
「あの時の悔しさというのは忘れられなくて。下級生から試合に出させてもらっているので『自分が引っ張っていかないといけない』と思っていても、チームの力になれずに迷惑ばかりかけていました。最初は自分もそうですし、選手同士でなかなか言えなかったんですけど、部長さんがずっとそうやって言ってくださったこともあって、だんだんミスとかも指摘し合えるようになってきました」
進藤の盗塁が口火となり勝ち越した2回戦の氷見戦など、今年のセンバツで山梨学院の走塁は大きな武器となった。
キャプテンは試合ごとに「今日はスタートの一歩目が遅かった」と走塁に言及するのと同じくらい、バッティングでも「打ってはいけないボールに手を出していた」と、課題を挙げながら幅広く振り返ることが多かった。つまり、部長の健人から指摘されてきた隙を選手たちが率先して埋めているのである。
試合での勝利は、その体現でもあった。
克己した選手に触れた監督はやがて、自分の心の隙間も埋まっていく様を実感する。
甲子園中に「心情」が変わった
不思議な感覚だった。
あれは3回戦の光戦だ。5回が終了し、グラウンド整備している最中に甲子園球場を見渡す。スカイブルーが映えるアルプススタンドを眺めると、山梨学院の監督になってから初めての感情が降りてきた。
「選手たちには楽しくプレーしてほしい」
吉田がこの時の心情をつまびらかにする。
「4回までは『なんであんな球に手を出すんだ!』とか思った時はね、選手にばれないように表情を作ったりしていましたけど、そういう私の硬さが選手たちを殺していたんでしょうね。グラウンド整備でそう感じてからは、『敗けても夏に頑張ろう』って純粋に思えて。あんなことは初めてでした」
まるで憑き物が取り除かれたように、吉田の表情は明るくなった。
キャプテンの進藤が「試合の度に温かい声をかけてくださるようになって、選手たちもやりやすい」と言えば、下級生から試合に出る星野泰輝の言葉も核心を突いていた。