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「JRA厩務員の年収は800~900万円以上とも…」異例の“ストライキ→強行開催”の裏で何が起きていた? ホースマンが「花形職業」であり続けるために 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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photograph bySankei Shinbun

posted2023/03/25 17:02

「JRA厩務員の年収は800~900万円以上とも…」異例の“ストライキ→強行開催”の裏で何が起きていた? ホースマンが「花形職業」であり続けるために<Number Web> photograph by Sankei Shinbun

3月18日、ストライキ中に開催となった中央競馬(写真は中京競馬場)

 とはいえ、「同一労働同一賃金」のガイドラインから外れ、旧賃金体系で働く従業員より2割も低い賃金で働きつづけながらモチベーションを維持するのは、いくらやり甲斐があっても、厳しくなることもあるだろう。

 ならば、旧賃金体系の従業員の賃金を下げて、「同一労働同一賃金」に近づければよさそうだが、現実には難しそうだ。

 現在、旧賃金体系の従業員が全体の4分の3ほどで、新賃金体系は4分の1ほどだという。新賃金体系の従業員の割合は年々増えていくので、旧賃金体系の従業員が定年などですべて退職したら、全体が新賃金体系になる。旧賃金体系の従業員が減っていくにつれて、従業員全員に要する人件費は下がっていくことになるわけだが、それを下げずに横ばいで維持して、差額を新賃金体系の従業員が受け取れるようにすれば賃上げにはなるが、そこまで引き延ばすのは酷だし、厩務員や調教助手が「夢のある仕事」ではなくなってしまうかもしれない。

厩務員や調教助手はファンにとっては“憧れの存在”

 今年は、春闘で大手企業が軒並みベースアップしており、その流れに乗るのは当然との見方もある。

 しかし、昨年、国家公務員のボーナスが減額されたのも事実だし、「金銭がらみ」ということでは、2年前に多くの厩舎関係者によるコロナ対策の持続化給付金の不適切受給問題があったことを世間は忘れていない。

 労使交渉において、世論を味方につけると有利になるのかどうかはわからないが、ファンにとって、厩務員や調教助手は、主役である馬の最も近くにいる特別な存在で、スター騎手と同じような(場合によってはそれ以上の)憧憬の対象であることを忘れないでほしい。馬にとってもファンにとっても大切な存在である厩務員や調教助手が、ストによる開催中止を交渉の手段とするのは、労働者に認められた正当な権利であるとはいえ、共感を得るのは難しいだろう。

 厩舎従業員の賃金の原資となっている馬主からの預託料は、JRAの厩舎の場合、1頭につき月70万円ほどと言われている。馬主にしてみれば、預託料が安くなるに越したことはない。

 また、JRAの売上げが回復しはじめた2012年から今に至る10年強の期間は、ノーザンファーム天栄に代表される「外厩」で調整された馬が好結果を出すことが顕著になった期間でもあった。トレセンや競馬場の厩舎など、JRAの施設にレースの10日前までに戻ればいいという「10日ルール」を活用しながら、厩舎の馬を回している。外厩の施設や調教技術が格段に進化し、かなりのレベルまで仕上げられて帰厩するため、トレセンの従業員は「10日間のエサやり係」などと揶揄されることもある。

 が、単なるエサやり係でないことは、先に記した働きぶりや、レースに向かう10日間の重要さを考えればわかるはずだ。それに、実際には、10日以上前に帰厩してレースに向かうケースも多い。

 ただし、この10年強の間にも賃上げは行われてきた。また、JRAの売上げが回復したといっても、ピークだった1997年の4兆円強の81パーセントほどまでしか戻っていない。経営が立ち行かず、調教師の定年を前に解散した厩舎も複数ある。こうしたなかでの大幅な賃上げは、厩舎経営をさらに圧迫し、安定した雇用を脅かすことにもつながりかねない。

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