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「JRA厩務員の年収は800~900万円以上とも…」異例の“ストライキ→強行開催”の裏で何が起きていた? ホースマンが「花形職業」であり続けるために
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph bySankei Shinbun
posted2023/03/25 17:02
3月18日、ストライキ中に開催となった中央競馬(写真は中京競馬場)
JRA厩務員の平均年収は「800~900万円以上」とも
今回の争点は、2011年にスタートした厩舎制度改革における新賃金体系だ。JRAの売上げが年々減少していたことを背景に、11年1月以降の就労者を対象に、賃金の約2割をカットすることで両者(労組と調教師会)が合意した。が、近年の売上げ増加、競馬学校厩務員課程の受験者減少などを受け、4労組はその撤廃をかねてより求めていた。
それに対し、日本調教師会は新賃金体系を維持したうえでの改善を提案しており、両者の溝は埋まらなかった。
「ストによる開催中止」という、言ってみれば「最終手段」が通用しない前例をつくってしまったことは、労組にとっては痛手だろう。が、それによって、前述したような争点が広く知れ渡ったことは確かだ。
JRA厩務員の平均年収は、800万円とも900万円以上とも言われている。GI勝ち馬を担当し、なおかつ、その厩舎が進上金をプールしてみなで分ける形ではなく、担当者が5パーセントを受け取れる形であれば、その倍以上になるだろう。その一方で、手取りが月に15万円とか20万円の人もいると聞く。それが高いのか安いのかについては、ここで何かを言うつもりはない。
危険が伴い、専門知識と高度な技術、そして重労働をこなす体力が求められるハードな仕事である。担当馬がストレスを感じる時間を少しでも短くするため、調教後、急いで馬体を洗い、重い水桶を持って早足で馬房に運び、湿った雑巾がすぐに凍るほどの寒さのなかでも洗い物をこなす。夏場などは汗に濡れたシャツを何度も着替えながら厩舎作業をするスタッフもいる。そんな彼らを見ていると、つくづく大変な仕事だと思う。
「同一労働同一賃金」は現実的には難しい?
しかし、同様の仕事をしながら、もっと低い賃金で働いている牧場の従業員はいくらでもいる。また、牧場などの従業員と違い、トレセンの厩舎の従業員は、厩舎が解散したり、何らかの理由で厩舎をやめたりしても、次の行き先が確保されるし、福利厚生が充実しているなど、公務員のような安定を得ることができる。
何より、大きなやり甲斐がある。馬が好きなら近くにいられるだけで幸福感が得られるし、担当馬が指示を覚えてくれたときの喜びや、ともに成長していく実感などは、ほかの仕事では味わえない。さらに、そうして世話をして仕上げた馬をレースに送り出して勝敗を競う緊張感と高揚感、勝利の喜びを仲間と分かち合う充足感は、ほかの何物にも換えがたい。