「確かに藤井さんの対局を見ていると結構、金将を押し出していくのが得意なんですよね。“攻め上がっているけど、金将は玉の近くにいる”という感覚があるというか。藤井さん自身、その形を生かして攻めて勝つ形も多い。だから僕自身も気になったので、他の棋士に聞いてみようと思ったんです」

　そこで高見と仲のいい八代弥七段や三枚堂達也七段ら、同年代の棋士に会ったところ、彼らも異口同音にこう切り出してきたという。

「この前の藤井将棋、どうだったの？」　

　それぞれが探究心たっぷりの状態で集った際、高見はこう切り出した。

「“藤井さんから指摘された手、当ててみてくれない？”。そう言ったら、誰も当てられないんです。もっと言えば、関東の若手棋士で藤井さんの手を挙げられる人は、誰もいなかった。つまり本当に誰もが気づいていない一手に藤井さんは気づいていたんです」

©Asami Enomoto

アクセルを踏み続けられて…

　その後、高見は銀河戦を勝ち上がり、決勝の舞台で藤井と再戦した。この対局では現在藤井がエース戦法としている「角換わり」の戦型で挑んだ。「藤井さんの中で全てがインプットされているのでは」と高見が語った一局は「アクセルを踏み続けられて、自分が対応を間違えたことで押し切られてしまった」。そう振り返る一方で、短期間で立て続けに藤井と盤を挟んだことで、感じ取ったことがある。

「AIの評価値が形勢を互角と示したとしても、最善手以外の手を指してしまうと、評価値が一気に奈落の底へと落ちてしまう。そもそも、そのような局面に誘導されていること自体が、対局している立場として非常に厳しい状況なんです。語弊があるかもしれませんが……藤井さんからは20歳とは思えない老獪さを感じました。

　その一方で、藤井さんは野球で言えば本当にテンポのいいピッチャーというか。抜群のコントロールと球威でガンガン攻めて来て、気づいたら2ストライクに追い込まれている感じです。そして、もしこちらがチャンスを作ったとしても、藤井さんは“絶対に抑える”とギアチェンジをしてくる印象です。本当に強く、厳しい相手なんです」

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