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「藤井聡太さんには気づけば“追い込まれている”」高見泰地七段が驚いた“誰も気づかない一手”「野球で言うと、大谷翔平投手のような…」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/02/25 06:00
王将戦七番勝負で防衛を目指す藤井聡太王将(現五冠)。高見泰地七段に「藤井将棋」について解説してもらった
“本当にスゴい”ときちんとわかっただけでも…
ハイスピードで進化を続ける藤井将棋。「同じことを勉強していたとしても、その際の吸収力、インプットする能力が本当に高いんだと思います」とも言う高見が、ふとこんな言葉を漏らしたのが印象に残る。
「藤井さんが“本当にスゴい”と自分自身が気づけたのは、ここ2、3年のことだと思うんです。それが改めてきちんと分かっただけでも、心の底からよかったと」
盤上以外でも中継解説や各取材での語り口を見れば、高見が将棋に真摯に向き合っているのは手に取るようにわかる。しかしそんな高見ですらも、藤井聡太が見ている将棋の深淵について、ようやく得られ始めた感覚なのだという。
絶望感というものはなくて
「例えば野球選手でも、大谷翔平投手のような素晴らしいピッチャーの球は、バッターボックスに入らないと実感できませんよね? それがベンチの控え選手、いやそれどころか野球場で見ている観客であれば“ああ、すごいんだな”くらいの漠然とした感覚になってしまいますよね。だけど昨年は藤井さんと対局したことで肌で感じ取れたし、自分の甘さに気づかされました」
着差を離され、自らの実力を痛感させられる。プロ棋士として重い事実なのではないか――高見は「そこには絶望感というものはなくて」と否定し、叡王戦を制した頃の記憶とともに、こう続ける。
「自分の話で恐縮なのですが、藤井さんが出始めている時期でした。彼が出てきているという焦りもあって、“藤井さんが台頭する前に1つはタイトルを取りたい”という気持ちは確かにあったんです。そういった意味では結果を出せたのは藤井さんのおかげだと感謝しています。ただ、今は藤井さんと戦うためには相当に努力しなければいけない。もちろん対局でも勝利を目指しますが、そこで負けたとしても着差を広げられていないとすれば、自分自身が成長して強くなっているはずと思えますからね。
そんな対局者としての経験を踏まえると、今回の王将戦で羽生先生がここまで2勝2敗のタイで藤井さんと戦っていることは、本当にすごいことだなと感じています」
羽生先生については…
高見はもう一人の天才棋士である羽生への敬意、そして畏怖の念について嬉しそうに、そしてちょっぴり恥ずかしそうに語りだした。
「羽生先生については、今でもお話しするのが緊張するレベルで……」
その出会いはさかのぼること22年、高見少年がまだ幼い頃の新宿駅構内での出来事だった。
(つづく)