濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
〈井上尚弥の次の世界王者へ〉異色のボクサー武居由樹が“初めて手こずった”防衛戦から見えた期待感 那須川天心との対戦を望む声も大きいが…
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byPXB WORLD SPIRITS/フェニックスバトル・パートナーズ
posted2023/01/31 11:03
12月13日のブルーノ・タリモ戦は、ボクサー武居由樹にとって初めて長丁場の試合になった
井上尚弥統一戦のアンダーカードで見せた“圧倒ぶり”
キャリア5戦5勝5KOで迎えた6戦目は、王座初防衛戦。12月13日、舞台は有明アリーナだった。井上尚弥の4団体統一戦、そのアンダーカードを務めたのだ。それも期待感の表れだろう。
挑戦者のブルーノ・タリモは、2階級上のスーパーフェザー級で世界ランキングに入っている選手。器用さは感じなかったが、とにかくタフだった。
タリモのセコンドの指示は「ハンズアップ!」、「ヘッドダウン!」、そして「インサイド」。手を上げてガードを固め、頭を下げて前に出る、そして距離を詰め、武居の懐に入って乱打戦。そういう狙いだ。ゴリゴリと距離を潰し、体力を削ってくる闘い。いかにも厄介な相手だった。
ボクシングデビュー以来、というよりK-1・Krush時代から豪快なKOを連発してきた武居も、今回は足を使った。タリモの前進をさばき、時にロープを背負いながらパンチを当てる。
終始、優位に試合を進めた武居。1ラウンドにダウンを奪い、オープンスコアリングでは4ラウンドまででジャッジ3者とも40-35。8ラウンドまででもフルマークが1人、79-72が2人という圧倒ぶりだった。サウスポースタイルからの右ジャブが何度もヒット。ガードの隙間を狙うアッパーもKrush時代から得意とするパンチだ。
「欲を言えば倒し切りたかった」
ただ、とにかくタリモが倒れない。武居はバッティングで目の上から出血。タリモもパンチで傷を負う。結局、この傷が広がったことで試合が止まった。11ラウンドTKO。過去5戦のタイムをすべて足したよりも長い闘いを制し、武居は王座防衛。連続KOも6に伸びた。
「もっとパッとした試合がしたかったんですけど」
試合後、リング上でそう語った武居。インタビュースペースでも「欲を言えば倒し切りたかった」と反省を口にした。注目度の高い大舞台、試合前は「どの試合よりも早く倒したい」と意気込んでもいた。
「うまくいったところは……あんまりないですね。タリモ選手がタフなのは分かっていたので、ああいう試合になるだろうと思っていたんですけど。だから想定内といえば想定内ですけど、もっと自分の距離で闘って、早いラウンドで倒し切りたかった」
試合が長引いたことで“手こずった”という印象もある。だが試合を見た者のほとんどは“だからよかった”と思ったはずだ。タリモがタフでやりにくい相手だったおかげで、武居は“長丁場”の経験を得た。