濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
〈井上尚弥の次の世界王者へ〉異色のボクサー武居由樹が“初めて手こずった”防衛戦から見えた期待感 那須川天心との対戦を望む声も大きいが…
posted2023/01/31 11:03
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
PXB WORLD SPIRITS/フェニックスバトル・パートナーズ
今年に入ってボクシング界で大きな話題となったのが、バンタム級世界4団体統一王者の井上尚弥の正式な階級変更だ。4つのベルトを返上し、これからはスーパーバンタム級でトップを目指す。
空位になった4つのバンタム級タイトルに関しては、今年“争奪戦”が展開されることになる。すでに井上尚弥の弟である拓真が王座決定戦の交渉中。また、井上兄弟と同じ大橋ジムに所属する武居由樹もバンタム級世界挑戦の候補になっている。井上尚弥の会見で、大橋秀行会長が明かしたものだ。
“階級を下げて”世界タイトルに挑む可能性
武居は現在スーパーバンタム級。階級を下げて世界に挑む可能性が出てきたということになる。「陣営としては、できるだけ早く世界タイトルに挑戦させたいはず」と、あるボクシング記者は言う。スーパーバンタム級は井上尚弥が王座統一を目指す階級だけに、バンタム級のほうがチャンスは多いだろう。
世界を目指す逸材というだけでなく、武居は異色のボクサーとしても注目されている。彼はK-1とその系列イベントであるKrushでチャンピオンになり、そこから2021年にボクシングデビュー。大橋ジムではトレーナーの元世界王者・八重樫東氏に師事する一方、K-1時代に所属したPOWER OF DREAMでの練習も続けている。
「お父さんが2人いるような感じです」
そう武居は言う。母子家庭で育った武居は“ヤンチャ”な少年時代を過ごし、POWER OF DREAMの古川誠一会長に預けられた。その様子は、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』でも取り上げられている。
井上尚弥、八重樫東と同じレコード
新たな目標としてボクシングの道に進んだ武居だが、K-1への愛着も強い。ボクシング転向を発表した際にも「K-1ファイターとしてボクシングのチャンピオンになりたい」と語っていた。八重樫トレーナーも、K-1ファイターとしての強さを活かしての闘いをバックアップ。無理に“ボクサー”への矯正はしなかった。
もちろん、同じパンチでもボクシングとK-1では違いがある。距離感、リズム、あるいは軌道。武居のパンチはボクシングの基準では“変則”かもしれないが、それだけ相手にとってやりにくい。
実際、武居のパンチはボクシングでも猛威を振るった。デビューから3戦連続1ラウンドKO。昨年8月、5戦目でOPBF東洋太平洋タイトルを獲得した。これは八重樫、井上尚弥と同じレコードだ。