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「空力の鬼才」エイドリアン・ニューウェイが、今なお製図板と鉛筆にこだわる理由とは《稀代の天才デザイナー》

posted2023/01/20 11:00

 
「空力の鬼才」エイドリアン・ニューウェイが、今なお製図板と鉛筆にこだわる理由とは《稀代の天才デザイナー》<Number Web> photograph by Getty Images / Red Bull Content Pool

1958年生まれ、64歳のニューウェイ。F1の現場を離れた時期もあったが、レッドブルとの関係はすでに17年にも及ぶ

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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 もうすぐ、2023年シーズンを戦う新しいマシンの発表会が始まる。その中でファンだけでなく、F1関係者からも注目を集めているのがレッドブルの新車発表会だ。

 その理由は、タイトル争いを繰り広げるだろうフェラーリやメルセデスより早い2月3日に発表会が予定されているからでなく、会場がサーキットやファクトリーでなく、アメリカ・ニューヨークだという話題性にあるわけでもない。多くの人が関心を寄せているのは、その新車の開発を指揮している人物が、だれもが認める天才だからにほかならない。その人物とは、エイドリアン・ニューウェイだ。

 彼の生み出したマシンはこれまでに180勝以上を挙げ、10回以上のコンストラクターズタイトルをチームにもたらしてきた。

 ニューウェイがデザインするマシンの最大の特徴は、空気力学(空力)が非常に優れていること。彼がF1界で初めて手がけた1988年のマーチ881は、まさにそんなマシンだった。当時のF1はターボエンジンと自然吸気エンジンが混走しており、ニューウェイが設計するマシンには自然吸気エンジンが搭載されていた。馬力面ではターボエンジンが優勢で、1988年にはホンダ・エンジンを搭載するマクラーレンが16戦15勝を達成したほどだった。そのターボ勢に対抗するため、ニューウェイは空気抵抗を極限まで削ぎ落とし、コクピットが異常なまでに小さいマシンを設計した。

 マーチ881をドライブしたイワン・カペリは「コクピットが狭すぎて、他車とレースする以前に自分のマシンと格闘していたよ」と笑って述懐するほどだった。だが、その年の日本GPで、カペリはトップを走るマクラーレン・ホンダのアラン・プロストをホームストレート上で追い抜き、衝撃を与えた。

マクラーレン・ホンダを破ったウイリアムズ時代の出世作

 そんなニューウェイの才能を高く買ったチームが、ウイリアムズだった。打倒マクラーレン・ホンダを掲げて、アクティブサスペンションなどハイテクマシンを開発していたウイリアムズは、空力の天才を手に入れたことで最強軍団となった。1992年にテクニカルディレクターのパトリック・ヘッドとともにニューウェイが開発したFW14Bは、ナイジェル・マンセルのドライビングもあいまってシーズンを席巻。無冠の帝王に初のタイトルをもたらした。その進化系であるFW15も1993年にタイトルを獲得。ニューウェイの出世作となった。

 ニューウェイが空力の天才と呼ばれる所以は、空気の流れを読む能力が備わっていることだった。80年代の空力の開発は製図板に鉛筆でデッサンするアナログなものだった。90年代に入ると流体の動きをコンピュータでシミュレーションするCFD技術や、それを元にして作られるモデルカーに実際に巨大な風を当て、空気の流れを可視化する風洞実験によって進められていくようになった。

【次ページ】 鬼才だけの「空気の流れを読む力」

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