ラグビーPRESSBACK NUMBER
「おまえやんのかゴルァ!」172cmのデクラークはなぜ大男に立ち向かえるのか? “世界一の9番”が明かす、負けず嫌いの原点とは
text by
朴鐘泰Park Jong Tae
photograph byMiki Fukano
posted2022/12/27 11:06
今季から横浜キヤノンイーグルスに加入した南アフリカ代表ファフ・デクラーク(31歳/172cm)。華麗なパスワークやキックはさることながら、果敢なタックルも光る世界一のスクラムハーフだ
――小柄な選手や大柄の選手が混在して、ラグビーはダイバーシティの象徴と言われていますが、南アフリカ代表はそのバックグラウンドも含めて、多種多様な選手が集まっていますよね。
D 南アフリカの選手たちのバックグラウンドをたどってみると、環境はいろいろ違うけど、恵まれた幼少期だったりとか、生い立ちが楽だったという人はほとんどいない。どの地域から来ようが、何かしら戦わなきゃいけなかった。戦わないと生きていけない境遇だった。そういう背景があるから、チームの結束力が高まっていると思う。ラッシー(・エラスマス/南アフリカ代表ディレクター・オブ・ラグビー)もよく言うんだ。「これからの試合はかなりタフになるかもしれないけど、おまえたちが育ってきた環境のほうが、もっとタフだっただろ? だから、こんなの乗り越えられるよな!」って。
――2019年W杯の準決勝、ウェールズ戦のことを聞かせてください。あの試合でロックのジェイク・ボールに突っかかっていったのは覚えていますか?
D 覚えてるよ。あのときは、(相手を)イラつかせてやろうと思ってね(笑)。
――その前の場面、ウェールズのスクラムハーフに決めたタックルも強烈でした。
D 試合中でも、相手をよく見て分析するのが大事だと思う。選手個人だけじゃなくて、チーム全体として「相手はこういうことをしてくる」と把握しなきゃいけない。あの場面、ショートサイドがガラ空きになってて、あの9番は絶対に狙ってくると思ったから、自分がタックルに行った。でもまあ、ラッキーといえばラッキー。直感と準備。そして、行くと決めたときに思いっきり行く勇気が大事だと思うよ。
「ラグビーでビビったことは一度もない」
――日本にはファフさんのような小柄な選手がたくさんいます。
D 恐れ知らずで行け、というのは簡単だけど、いいタックルをしたかったら、ちゃんとスキルとテクニックを磨かなきゃいけない。そのスキルとテクニックを身につければ、自信も持てて、怖がらずに100%の力でプレーできる。あとは、直感。気持ちで行くのが大事。
――直感が大事なんですね。
D あくまでも、しっかり練習して、ハードワークしたうえで芽生える直感だけどね。
――日本には「小よく大を制す」という言葉があります。小よく大を制す上で、何が大事?
D 準備と訓練。そして、チャンスに対して勇気をもって挑むこと。
――小さくてよかったことは?
D 飛行機の席が他の人より広く感じる(笑)。ラグビーをしてると、まわりが過小評価してくる。どうせタックルできないだろ? 弱いだろ? 走れないだろ? ってナメてくるけど、実際はそうじゃない。
――小さくて損したことは?
D ちっちゃいときにジェットコースターに乗れなかったこと(笑)。それ以外はないね。
――ラグビーを始めたとき、まわりは自分よりデカい選手ばかりだったのでは?
D いや、そんなことないよ。南アフリカにもいろんなサイズの選手がいるよ。
――自分よりデカい選手に対して「怖い」という感情がわかない?
D ノー。ないね。
――ビビったことはない?
D もちろん、人生のシチュエーションにおいてビビったことはあるよ。でも、ラグビー選手として、ラグビーでビビったことは、一度もない。