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落合博満のグラブを作った男 ハタケヤマの野球用具はなぜ超一流の野球人に愛されたのか まさに「下町ロケット」の町工場が生んだ“作品”の秘密
text by
渋谷真Makoto Shibutani
photograph byMakoto Kenmizaki
posted2022/12/21 11:01
こだわりが強い落合博満も現役時代の一時期にハタケヤマのグラブを愛用した
「若」は経営者である以前に、グラブに精通した職人であり、球場に日参する営業マンだった。ライバル社との契約選手でも、手を合わせて頼まれればその場で修理した。技術と人柄と情熱。大阪の下町の町工場が超一流の顧客から支持され続けた理由である。
とりわけ捕手用具でいえばプロ野球では圧倒的なシェアを誇っている。恐らくは半数以上。選手より多くの球を受けるブルペン捕手だとさらに顧客は多いのではないか。「ミットはプロに入ってからずっと、プロテクターやレガースもここ5、6年は使っています」という中日ドラゴンズの大野奨太に、ハタケヤマの魅力を聞いた。
「ミットでいえば、まず革が全然違います。はめた時のフィット感。そして捕った時の感覚。バットなら打感なんで、キャッチングなら捕感ですかね。それが違うんです。さらに丈夫。僕は長く使う方だと思いますが、2年、3年と使っても質感が落ちないんです」
「感覚」こそ命。顧客第一に寄り添う“作品”
すべてはあいまいな「感覚」の話であるが、作り手も使い手もプロフェッショナルだ。数値に表しにくい「感覚」こそが一瞬のプレーを決める。左手を差し込んだ時のフィット感、150kmの球を受け止めた時の捕球感、そして他のポジション以上に求められる耐久性。顧客第一に寄り添うハタケヤマならではの“作品”だった。大野はさらにプロテクターの秘密も教えてくれた。ワンバウンドした球の衝撃を吸収し、体を守る。それも大切な要素だが、捕手が求めるのは「体で止めた時に、目の前に落ちてくれること」だ。
「斬新ですよね。吸収剤もかなり入っていますから、受け止めてくれるというのはもちろんですが、僕たちからすればしっかりと止めたはいいけど、止めた時にそこにないと(走者に進塁されてしまう)。(ハタケヤマのプロテクターは)落ち方がいい。手元に落ちてくれるんで、かなり助けられた部分はあるんです」