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「アサノが有力紙1面」「トミヤスは世界を驚かせると…言った通りだろう!」なぜイタリアが“日本、ドイツに逆転勝利”で超ノリノリなのか
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/11/26 11:03
イタリアで日本代表の勝利を称える声が起きている。それは“ドイツとの文化的な関係性”もあるようだ
1923年にミラノで最初に対戦して以来、今年6月のUEFAネーションズリーグまで、イタリアとドイツは通算37回も勝ったり負けたりを繰り返している歴史的ライバルなのだ。
親善試合やEUROなど含む通算成績はイタリアの15勝9敗14分。ともに4度ずつ制したW杯で5回実現した対戦は3勝2分とイタリアの優位なれど、ドイツとの試合はいずれも難ゲーム必至。とりわけ延長の末、4-3でイタリアが競り勝った70年メキシコW杯の準決勝は、今もアッズーリ史上至高の激闘として語り継がれている。
史上屈指の名守護神ブッフォンやゲルマンの大砲ビアホフは、かつて「イタリアとドイツの対戦は“欧州ダービー”だ」と口を揃えた。サッカーの世界で、両国は“宿敵”と見なされている。
反目するのは、歴史的要素も大きい
両国が反目するのは、歴史的要因も大きい。
第2次世界大戦でイタリアとドイツ、そして日本は枢軸国として三国同盟を組んだ。しかし降伏後、連合国陣営についたイタリアにドイツは砲火を向け、その恨みを抱える年配者は今も相当数いる。
現在でも、ドイツが手綱を握るEUの経済政策のせいで、イタリアは苦しい財政を強いられていると考える向きは多い。
長靴の半島には太陽を求めるドイツ人観光客が大挙押し寄せるが、寒いドイツにわざわざバカンスに出かけるイタリア人はいない。ドイツ料理が大好きだというイタリア人がいたら超希少だ。日常生活からドイツを敵(かたき)と反目する土壌は揃っている。
とりわけ、カタールW杯出場を逃したイタリアにしてみれば、憎っくきドイツを代わりに倒してくれた日本を祝福し、拍手を送りたくなるのは当然なのだ。
「トーキョーの交差点のニュース映像見たよ」
ドイツ戦の翌日は、いつもの朝とちがった。
子供を学校まで送り届けると、知り合いの父兄たちから口々に「日本やったな!」と声をかけられた。
行きつけのバールに立ち寄ると、これまたバリスタや馴染みの客に「試合すごかったな」「トーキョーの(渋谷スクランブル)交差点のニュース映像見たよ」とお褒めに与った。ドイツを除く世界中の在外邦人が、代表チームの栄誉のおこぼれを頂戴していることだろう。
ただし、浮かれるばかりではない。イタリアは日本対ドイツ戦を第三者視点で冷静に見ていた。
全国紙『コリエレ・デッラ・セーラ』は、2面特集で試合を大きく報じたが、記事の主眼は強豪国ドイツの敗北ではなく、人権を軽視する開催国とFIFAへドイツ代表が試合前に示した抗議行動についてだった。
異なる価値観を振りかざすカタールで、西欧各国の代表は競技以外の関心も背負っている。