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“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「あの時、俊輔はいい指導者になると思った」桐光学園の恩師が明かす、高3中村俊輔が“体育の授業”で放った輝き「バスケもうまくてね」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE
posted2022/10/28 11:05
現役ラストマッチとなった熊本戦では、ベンチに退いてからも大きな声でチームメイトを鼓舞していた中村俊輔
体育の授業とは思えない美しい崩しが中村を中心に展開される。そして、中村は佐熊にこう言ってきたという。
「サッカーでこのプレーをもっとやりたいです。サッカーもバスケと同じで足元にスピードのあるパスを正確に通せば、すぐにドリブルを仕掛けられます」
バスケットボールの小さなコートからピッチでのイメージを膨らませていたのだろう。
この話を佐熊が再び思い出したのは、中村が桐光学園を卒業してから16年後の2013年のことだった。S級ライセンスを取得中だった佐熊は、川崎フロンターレで国内研修に参加しており、当時の指揮官・風間八宏監督と散歩しながらサッカー談義に花を咲かせていた。風間は言った。
「佐熊、サッカーで大事なのは真ん中だよ。スペースがサッカーにはあるから、裏のスペースやサイドのスペースを生かそうとしてしまうけど、そこにボールを蹴るんじゃなくて、強いボールを味方のちょっと前に出せば、そこでスペースは作れるし、そこから打開できる。(それができれば)サイド攻撃なんて必要がないんだ。スペースがなくても足元にキュッと速いパスを通せば、一歩で剥がせるし、スペースができる。大事なのはその速いパスを蹴ることができるか、そのパスを正確に止めることができるか。バスケとかハンドボールが極論なんだよ」
佐熊の足が止まった。
「あれ? これどこかで聞いたことがある話だな」
想いを巡らせたとき、頭に浮かんできたのが体育館でバスケットをしていた中村の姿だった。
その瞬間、自身が指導者として未熟であったことを痛感し、そして中村俊輔という人物が指導者に向いているのではないか、という予感を抱いた。
「俊輔は素晴らしい指導者になるんじゃないか」
「俺はあの時、俊輔に『そこまでやらなくてもいいんじゃないか』と言ってしまった。ああ、俊輔って、もしかして素晴らしい指導者になれるんじゃないか。風間さんを超えるんじゃないか、と」
佐熊は続ける。
「(俊輔は)僕らが考えている以上の指導者になると思う。特に育成年代の素晴らしい指導者になる。彼には人間力があるでしょう。それに、俊輔は挫折をこれでもかと経験をしてきた。海外で華やかな経験をした一方で、サッカー選手としての挫折をほぼすべて経験したんじゃないかな。挫折を多く経験した人の方がいい指導者になる。もちろん、プロを相手にしても素晴らしい指導者になるとは思っていますけどね」