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“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「あの時、俊輔はいい指導者になると思った」桐光学園の恩師が明かす、高3中村俊輔が“体育の授業”で放った輝き「バスケもうまくてね」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE
posted2022/10/28 11:05
現役ラストマッチとなった熊本戦では、ベンチに退いてからも大きな声でチームメイトを鼓舞していた中村俊輔
入学後も、中村は佐熊に常に学びを与える存在だった。プレー面だけではなく、サッカーに取り組む姿勢もしかり。
毎朝7時頃、ボールを蹴りながらグラウンドにつながる登り坂を駆け上っていく姿を知っている。「1秒でも早く練習がしたいから」という理由で、昼休みにグラウンド整備を率先してやっていた。全体練習の後も21時の消灯までずっとボールを蹴り続けていたのが中村だった。
「グラウンドにいる俊輔に『お~い、消すぞ~』と声をかけて電源を消すのが、日課でした(笑)」
懐かしそうに思い出を語る佐熊が「そういえば」と、あるエピソードを教えてくれた。
バスケもうまかった「サイドよりも真ん中」
「彼が高3の頃、私が受け持っていた体育の授業でバスケットボールをやったのですが、俊輔が意外とうまくてね」
最初は感心するだけだったが、授業を重ねるごとに中村が得点に繋がるようなパスをズバズバ通し始めた。そのパスはすべて中央への縦パスやクサビのパス。サイドに展開するようなパスは1つもなかった。佐熊は「サッカーと一緒でオープン攻撃もあるぞ」と指摘すると、中村はこう答えた。
「でも先生、サイド攻撃にこだわるよりも真ん中のリングを目指して最短距離を突破してゴールをするのが一番いいんじゃないですか。その方が早いですよ」
パスと見せかけてドリブルを仕掛けた後に、2m程度の距離にいる味方に強いパスを胸元に出し、そして自らも前に動く。そこで佐熊はハッとした。
「バスケはサッカーと比べるとスペースがあまりない。だからこそ、スペースにパスを出すより、強いパスを味方に出して、意図的に味方を動かせばより効率的になる。左側に投げれば味方は左側に動くし、右側に投げれば右側に動く。スペースがない状況を俊輔はすぐに把握して、実行していたんです」