沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
敗れた騎手が語った「でかい鼻差です」 大接戦となった菊花賞、アスクビクターモアはなぜ勝てたのか?「何とか凌いでくれないかと」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byPhotostud
posted2022/10/24 12:35
菊花賞を制したアスクビクターモアと田辺裕信
ナリタトップロードの記録を21年ぶりに更新
「ダービーもそうでしたが、瞬発力勝負より持久力勝負に分がある馬だと思っていたので、そろそろ行っても凌げるんじゃないかと動いて行きました」
そう話した田辺がラスト200m手前で右鞭を入れたときには、2番手のジャスティンパレスと、その外に併せたボルドグフーシュとの差は3馬身ほどあった。
このまま押し切って圧勝かと思われたが、ラスト100mほどからジャスティンパレスとボルドグフーシュが併せ馬の状態で1完歩ごとに差を詰めてくる。もっとも勢いのあった外のボルドグフーシュが、馬体を離して逃げ込むアスクビクターモアに並びかけたところがゴールだった。
非常に見応えのある攻防だったが、アスクビクターモアが鼻差でボルドグフーシュの猛追を凌いでいた。
「ポジションを取りに行き、自分から勝ちに行ったので、最後は脚が上がり気味でしたが、迫ってくる相手の勢いもジリジリだったので、何とか凌いでくれないかと思っていました」と田辺。
勝ちタイムは3分2秒4。2001年の阪神大賞典でナリタトップロードがつくった記録を21年ぶりに更新するレコードだった。
敗れた騎手「でかい鼻差です」
田辺が迷うことなく勝ちに行く競馬に徹することができたのは、レース前、田村調教師から「馬の力は一枚も二枚も上だから、思い切って行ってこい」と言われたことも大きかったようだ。
ディープ産駒は、サンデーサイレンス産駒を抜き、歴代単独トップとなる菊花賞5勝目をマーク。初年度産駒から12年連続でクラシックを制したことになる。
2着のボルドグフーシュは、後方から4コーナーで馬群の外目からスムーズに伸び、あと1歩のところまで来た。「でかい鼻差です」とコメントした吉田隼人も、管理する宮本博調教師も、直線入口でアスクビクターモアに大きなリードを取られたことを悔しがっていた。ということは、田辺の取った戦法が正解だったのだろう。
3着のジャスティンパレスは17番という外枠からの発走だったが、鮫島克駿がゲートを出てほどなく内に切れ込み、馬群のなかでギリギリ折り合いをつける好騎乗を見せた。
1番人気のガイアフォースは、道中、ジャスティンパレスの内につけ、省エネコースを通っていたのだが、伸びずに8着。中盤までやや行きたがっていたことが響いたか。松山弘平が「距離もあったのかもしれません」とコメントしていたように、ここは距離が長かったのかもしれない。