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「完全に間違いだった…」フェラーリ代表、マッティア・ビノットが謝罪し、角田裕毅が悔やんだ「ツナミ」発言騒動の全容
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/09/14 11:00
公式会見で「ツナミ」発言を認め謝罪したビノット代表。95年にエンジン技術者としてフェラーリに入社し、19年からチーム代表を務める
にも関わらず、ビノットがオランダGPのレース後に行った「ツナミ」発言を最初に指摘したのは、日本のメディアではなくイタリアのメディアだった。ヨーロッパから発せられていたビノットの「ツナミ」発言の報道と、それに対して日本人がSNS上でさまざまな反応を示しているという状況を、日本のメディアのひとりとして、複雑な思いで見ていた。それは、筆者が東日本大震災で甚大なる被害を受けた宮城県仙台市の出身で、父親の実家が南三陸町にあることも関係している。
その翌週に開催されたイタリアGP。土曜日のFIA会見にビノットが出席する。自然と足が会見場へと向かっていた。
司会者による代表質問が終了し、自由な質疑応答が始まった。多くのジャーナリストと同じように挙手すると、4番目に質問をする機会が巡ってきた。マイクを渡された筆者は、ビノットにこう尋ねた。
「オランダGPのレース後に、リタイアした角田のことをあなたは『ツナミ』と表現しました。それは、ある意味冗談のつもりで言ったんでしょうが、日本には津波の被害を受けて苦しんでいる人がいまでも大勢います。その方々に対して、謝罪する気持ちはありますか?」
間違った使い方、悪い冗談だった
ビノットは、会見場の一番後ろに座っていた筆者をしっかりと見つめてこう語った。
「確かに、私は謝罪しなければならない。心から謝罪したい。その言葉を使用したことは、完全に私の間違いだった。その言葉を使用することで、被害者の方々を傷つけるつもりはまったくなかったが、間違った使い方をしてしまったことは事実であり、謝罪したい。それから、ツノダについても謝罪したい。彼は素晴らしいドライバーで、素晴らしい人間だ。彼とは良い関係を築いていたと思っていたので、ちょっとした冗談のつもりで言っただけなんだが、それは悪い冗談だった。本当に申し訳ない」
その後、いくつかの質疑応答が続き、会見が終了。筆者がスピーカーの側に置いたICレコーダーを取りに行こうと壁際に向かうと、ビノットがこちらに歩み寄ってきた。そして、筆者の前で立ち止まり、握手を求めて、こう言った。
「質問してくれてありがとう。本当に申し訳なかった」
謝罪とは、一義的には過去に犯した過ちを償うために行うものだが、同時に未来へ向けて、人と人との関係をより良いものにするために行われるものでもある。
もうすぐ、日本GP。温かい気持ちでフェラーリの来日を出迎えたい。
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