F1ピットストップBACK NUMBER
ホンダ・スピリット全開! 圧倒的強さで勝利したベルギーGPの表彰台で、HRC吉野誠メカニックが男泣きした理由
posted2022/09/01 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images / Red Bull Content Pool
ラストイヤーとなった2021年にドライバーズ・チャンピオンを獲得し、F1参戦を終了したホンダ。だが、彼らの挑戦はその後も続いた。22年以降もレッドブルとアルファタウリのマシンに搭載するパワーユニット(PU)を開発・製造するためだ。
チャンピオン獲得に大きく貢献した「新骨格」と呼ばれたICE(内燃機関)は、参戦終了に伴い、お蔵入りとなる寸前で開発が再開されたエンジンだった。22年に向けて、ホンダはその新骨格に大きな変更を加えた。今年からF1で使用される燃料が、レギュレーションで「E10(イー・テン)」と呼ばれるガソリンになったからだ。
F1はいま地球温暖化対策のために持続可能な燃料へ移行している。21年からバイオ燃料であるエタノールが7.5%添加されたガソリンを使用していたが、22年はその混合率は10%へ引き上げられた。これによって、パワーユニット・マニュファクチャラーの戦いは新たな時代に突入した。
エタノールのようなアルコール燃料は密度が低いため、そのままではパワーが落ちる。ホンダが行ったのは、E10でもパワーをできるだけ落とさない効率の良いICEへの進化だった。それは、今年からホンダの二輪と四輪のレース活動を担うホンダ・レーシング(HRC)の四輪レース開発部の浅木泰昭部長が、「外見は同じでも中身はガラチェン(ガラッとチェンジ)」と語るほど大規模な変更だった。
新パワーユニットの快進撃
この変更が功を奏し、新たなPUを搭載するレッドブルは22年も快進撃を続け、前半戦をチャンピオンシップリーダーで折り返した。夏休み明け初戦となった第14戦ベルギーGPの舞台は、F1で最もチャレンジングなコーナーのひとつであるオー・ルージュを擁するスパ・フランコルシャン。PUの現在地を把握する絶好のチャンスとなった。
そのベルギーGPで、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが予選で他を寄せ付けないトップタイムを記録し、レースに圧勝。2位にもチームメートのセルジオ・ペレスがつけ、ホンダのDNAが宿るPUが1ー2フィニッシュに貢献した。
チェッカーフラッグを受けた直後、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は自チームのスタッフを介して、ホンダのあるスタッフへ伝令を送った。レッドブル側でチーフメカニックを務める吉野誠だ。チーフメカニックとしてホンダのスタッフを束ねている吉野は、ホンダがF1参戦を終了してからもイギリスに残り、HRE(ホンダ・レーシング・ヨーロッパ)・UKのマネージャーとして、ホンダのPUをレッドブルが運用するためのサポートを行っている。