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あの5打席連続敬遠から30年…星稜・松井秀喜から逃げなかった3人の高校生が明かす“真っ向勝負”「監督が敬遠しろって言ってます」
text by

日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byKoji Asakura
posted2022/08/15 17:02

あの5打席連続敬遠が起こる前、星稜・松井秀喜に挑んだ3人のピッチャーが30年前の真っ向勝負を振り返った
「勝てる気はせんでいった」前年秋から季節は移り、最後の夏、曇天の石川県立野球場で星稜と再び相まみえた。
「もう勝つ気満々で。勝つか負けるか、まあ半々やったんですけど」
当時の星稜は好選手が多く松井だけのチームではなかったが、すでに全国区の主砲がノーマークであるはずもなかった。県工の指導者はバッテリーに策を授けた。
「キャッチャーが敬遠みたいに立って、次の2球目、ズバッといけ」
成功すれば1ストライクを稼げる算段だ。
「キャッチャーはイヤイヤ立ってました。俺も最初から勝負したかった。打つ気をまぎらわす、みたいに言ってたけど、絶対まぎれんと思ってました」
選手が不本意な時点で作戦は半端だった。
「成功しないです。たぶん敬遠とか信用してないでしょうね。なんも動じん表情で、こうやって立っとったんじゃないですか」
葛城はそう言って、顎を引き目を細めた。
松井秀喜から逃げなかったエース葛城
1ボールを撒き餌とする奇襲はむしろ仇となった。2回先頭の松井に四球を与え、後続の適時打で先制のホームを踏まれた。さらに守りの乱れから追加点を許す。結局、0-2のままゲームセットを迎えた。
松井は4打席に立って、2四球、1安打。完投の葛城が勝負を避けた場面はない。
「センター前とセカンドゴロかなあ。2個フォアボール出したんが悔いですわ。最後、ひざ元のスライダーでストライク取ろうかと思ったらコントロールが定まらん。2個ともそうやと思うんです。未熟やったすね」
野球はもうやめようと思っていた。強力打線を2点で抑えた好投に「すっきりしました」。葛城は笑顔でグラウンドを去った。