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「なんの涙かわからないんです」田中希実22歳の3種目挑戦に、あの女王ハッサンもテンション爆上がり!「本当?うれしい!」《世界陸上の感動秘話》
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2022/07/26 17:05
世界陸上で中距離3種目に出場し、9日間で5レースを走りきった田中希実
「東京五輪で私も3種目走ったけど、金メダルを取れるなんて思ってなかったし、そもそも、その(メダルの)ために走ったんじゃない。3種目に挑戦したのは自分がどれだけできるか知りたかったのと、今までとは違うことをやってみたかったから。だから彼女は(今大会の3種目挑戦を)誇りに思うべきだし、一所懸命に取り組んでいたら絶対に結果はついてくると思う。才能やセンスだけでは3種目に挑戦できないよ。一所懸命、毎日頑張らないとできないことだよ。挑戦し続けたら、絶対に結果は出るから。だからしっかり前を向いてがんばって」
ブダペスト世界陸上、そしてパリ五輪へ
結果が出ずに涙を流した田中をハッサンは気遣い、ここで挫けないでほしいとエールを送る。
「田中が(5000mの予選後のハッサンからのコメントに)感謝している」と伝えるとハッサンはとろけるような笑顔になった。
「私の方こそ感謝の気持ちでいっぱい。I love her(彼女が大好き)」
その後SNSで、ハッサンが今大会のナンバーカードとTシャツを田中にプレゼントしたことを知った。
ハッサンは落ち込む田中をなんとか励ましたい、その気持ちで居てもたってもいられなくなったのだろう。ハッサンは今年29歳になるが、これまで何度も挑戦し、はねのけられ、たくさんの涙を流した。
2015年北京世界陸上の1500mで銅メダルに終わった際には、周囲が驚くほど号泣し、レース後数時間経っても泣きじゃくっていた。2016年リオ五輪は怪我のために振るわず、5位でメダルを逃し、2017年ロンドン世界陸上では距離を伸ばして5000mで銅メダルをとったが、金メダルには届かなかった。
悲願の金メダルを取ったのは2019年ドーハ世界陸上だ。その大会で前代未聞の1500m、1万mに挑戦し、両種目で金メダルをとると、東京五輪ではさらに1種目増やし、3種目に挑戦した。
ハッサンは田中の話を聞き、自身の過程を思い出したのだろう。タオルが絞れるのではないかと思うくらい泣いたこと、練習過多で怪我をしたこと、それでも諦めなかったこと。
田中は今大会最後のレース後に、再びの3種目挑戦への明言は避けたが、今回学んだことは多いはずだ。
次の世界大会で田中とハッサンがどんな挑戦をするのか、誰にも分からない。でも彼女たちの走りは我々をワクワクドキドキさせる。2人が再び同じ舞台で走る日が待ち遠しい。そして次回は2人とも笑顔だといいと思う。
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