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「なんの涙かわからないんです」田中希実22歳の3種目挑戦に、あの女王ハッサンもテンション爆上がり!「本当?うれしい!」《世界陸上の感動秘話》
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2022/07/26 17:05
世界陸上で中距離3種目に出場し、9日間で5レースを走りきった田中希実
そもそも自分で3種目挑戦を決めたにも関わらず、なぜかネガティブなコメントばかりだったのも興味深かった。
「スタートした瞬間、走るのをやめたくなった」とか、1500m予選で転倒した際には「プロテスト(抗議)で次に行けるはずだから、立ち上がらないで転んだままでいようかな、と思った」など、記者たちを笑わせてくれた。(※実際は立ち上がり、猛烈に追い上げて予選1位で通過している)
3種目挑戦したものの、東京の暑さや湿度は体にこたえたのだろう。疲労の色が日に日に濃くなっていった。また観客がいない中での中長距離レースも精神的にきつかったはずだ。
だがハッサンは有言実行し、走り切った。
「メダルはうれしいけれど、挑戦したことが大事」
「皆、私をクレイジーだと思うでしょう。でもその方が楽しいでしょ」
記者会見でニコニコと笑顔で、少し甲高い声でこんな話をしてくれた。
あまりにも次元の違うパフォーマンスとコメントで、彼女は記者の心を鷲掴みにした。
ハッサンにノゾミ・タナカの挑戦について伝えると…
今大会、ハッサンは1万m(4位)と5000m(6位)の2種目に出場した。東京五輪後にオフをとり、本格的な練習を始めたのは春先ということもあり、「ベストには程遠い状態」と本人は話す。
しかしその状態で自分がどこまでできるのか試すために今大会に臨んだ。
5000m予選後、ハッサンにこう質問してみた。
「日本人選手のノゾミ・タナカも3種目に挑戦するんだけど、どう思う」
レース後で少しテンションが低かったハッサンのスイッチが一気にオンになった。
「本当? うれしい!」
予想外の返答にこちらが戸惑っているのをよそに、ハッサンのテンションは上がり続ける。
「重要なのは勝利だけじゃないよ。いろんな挑戦をする選手、違う戦略を持って走る選手がいていいと思う。がんばって! 彼女の3種目挑戦は私も楽しみだし、彼女から学びたい」
こうも続ける。