大相撲PRESSBACK NUMBER
大相撲なのに「まるでヘビー級ボクシング」…17発“伝説の張り手合戦”はなぜ起きた? 22歳元ケンカ番長・千代大海に武双山26歳は「キレました」
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph bySankei Shimbun
posted2022/07/11 11:00
1998年7月13日の大相撲名古屋場所9日目、武双山の側頭部に千代大海の強烈な張り手が炸裂した瞬間。ボクシング顔負けの異様な光景に館内は騒然となった
審判部長「ボクシングのヘビー級より迫力が…」
張り手合戦はなおも続いたが「相手の口から血が見えた。ああなったら、廻しなんかいらない」と千代大海は、相手を押し込むよりもKOを狙うかのような張り手の連発で上体が徐々に起きてしまい、重心が浮いたところを武双山が下から押し上げ、最後は向正面に突き出して相手を土俵下に沈めた。
勝った武双山は東の二字口に戻りながら息を吐くと、血吹雪がパーッと宙を舞った。敗れた千代大海は取組中とは打って変わって淡々とした表情で深々と一礼し、静かに土俵を降りた。
武双山が10発、千代大海が7発と、合計17発の壮絶な張り手バトルに館内はヒートアップ。32秒の大激戦を土俵下で見守った佐渡ヶ嶽審判部長(元横綱琴櫻)のコメントも「ボクシングのヘビー級よりもっと迫力がすごかった。久しぶりに興奮したね」と思わず熱を帯びた。
「力は出し切れた。流れでああなっただけで、どっちが勝ってもおかしくなかった」と語る勝者に笑顔はなかった。一方の千代大海は「相撲だもん。因縁とかはないよ。でも、次やるときも張り手でいくよ」とのちに“ツッパリ大関”と言われただけに、敗れてなお血気盛ん。
闘志と闘志がぶつかり合った“バチバチ”の戦いであったが、当時の時津風理事長(元大関豊山)は「2人のファイトは買うが見苦しい」と苦言を呈するなど、賛否両論が相半ばした一番だった。