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大相撲なのに「まるでヘビー級ボクシング」…17発“伝説の張り手合戦”はなぜ起きた? 22歳元ケンカ番長・千代大海に武双山26歳は「キレました」
posted2022/07/11 11:00
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph by
Sankei Shimbun
「壮絶!! 17発」
「流血バトル」
「KO勝ち」
まるで激しいパンチの応酬を連想させる見出しが、平成10(1998)年7月14日付のスポーツ新聞各紙の紙面上に躍ったが、これはボクシングの試合を報じたものではない。同年名古屋場所9日目の千代大海対武双山の一戦は、今や伝説と化した両者一歩も譲らぬ壮絶な“張り手合戦”となった。
強烈な一撃が側頭部に…冷静な武双山も「キレました」
立ち合いで激しく当たり合った2人は、気迫のこもったパワー全開の突っ張り合いを展開。武双山の右からの突きでやや横を向いた千代大海が向き直った瞬間、武双山の横殴りの右張り手が千代大海の左の顎にヒットしたが「張り合いになると思っていた」とこれは想定内だった。
角界入り前の中学時代、10数人の高校生の集団に単身で乗り込んで全員をぶちのめすなど、数々の武勇伝を持つ“元ケンカ番長”はこの一発で完全にスイッチが入った。すぐさま上から叩きつけるような張り手を“平成の怪物”と言われた男の左側頭部に見舞った。
「キレました。乗ったらいけないけど、相手に合わせてしまった」と、いつもは冷静な武双山もこの一発で頭に血が上ったようだ。千代大海がなおも速射砲の突っ張りを相手の顔面に浴びせると、大関候補の26歳は大振りの右からの張り手。同時に22歳の新関脇も“左フック”を見舞うが、両者の距離がやや開いていたこともあり、ともに空を切った。
今度は元ケンカ番長が“右フック”と見せかけたフェイントで、左からまるでストレートのような強烈な張り手を打ち込んだ。平成の怪物もほぼ同時に右張り手で対抗するとそのまま休まず押し込んだが、一瞬、引いたところで千代大海が反撃。両者はほぼ土俵中央で互いに相手の動きをうかがうように、離れた状態でしばし見合う体勢となった。