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「僕も家族も最悪死ぬことを覚悟している」ヨットで世界一周を目指す脱サラセーラーに、妻が出した“たった1つの約束ごと”
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byAnne beauge/ilsaimentlamer.com
posted2022/06/25 11:03
海への憧れを捨てきれずに脱サラしてプロセーラーになった鈴木晶友36歳。6月26日にモロッコを出発するヨットレース『GLOBE40』でついに世界一周の船旅に挑戦する
「最近は海の上でもたくさんゴミがあるとニュースで取り上げられていて、確かにビーチクリーンをするとゴミが多いんです。でも初めて渡った大西洋上ではゴミ1つなくて、すごくきれいでした。僕が通ったルートがたまたまそうだったのかもしれないけど、他の海は一体どうなっているんだろうと。世界の海を実際に見てみたい。それが今回のレースの夢なんです」
「憧れの場所です」“船乗りの墓場”ケープホーン越え
鈴木がいま知っている海は太平洋と大西洋だけ。海は繋がっているはずなのに、その2つを比べても個性は大きく違うという。
「大西洋はすごく天気が安定しているので、コロンブスも渡れたんです。太平洋は天気が安定しないので遭難する人も多い。だからまだ行ったことのない南氷洋(南極海)やインド洋も僕の中での大きなチャレンジになります」
南半球の高緯度の海域では西から強風が吹き続け、その緯度によって『吠える40度(Roaring Forties)』『狂う50度(Furious Fifties)』『絶叫する60度(Shrieking Sixties)』と言われるほど挑戦的な海になる。GLOBE40ではアフリカ大陸最南端の喜望峰を回る第2区間、モーリシャスからオークランドに向かう第3区間、南米大陸に向かう第5区間で大きく南下する必要があり、ここが大きな難所だ。
「コースの中でも一番南を通るこの3カ所は僕も一番緊張するところ。見ている方もここは無事に越えてくれよと願ってもらいたいです」
なかでも最大のチャレンジと位置づけるのが、第5区間で訪れるケープホーン越えだ。チリ南部のティエラ・デル・フエゴ諸島の最南端にある岬、太平洋と大西洋が出会うこの場所は“船乗りの墓場”と呼ばれるほど危険な場所でもある。
「南極に近く、とにかく低気圧がどんどん来るんです。真夏でも風が40mとか吹くようなところなので、タイミングを合わせて通らないと危ない。昔はGPSとかもなかったので、座礁する船も多かった。天気が荒れるので、風の力だけで船が転覆したりもします。もうとにかくずっと強い西風。どんな時も10mぐらいの波がある場所なんですよ。話で聞くとすごいし、動画で見てもやっぱりすごい」
ただし、登山家にとってのエベレストのごとく、船乗りの本能をくすぐる場所でもある。鈴木もこう言った。
「レース最後の大きな難所であり、憧れの場所です」
危険と隣り合わせの船旅…妻が提示した“約束事”
危険は承知の上。ケープホーンでなくても、海ではいつも危険と隣り合わせだ。インタビュー中も笑みを絶やさぬ快活な表情とは裏腹に、鈴木は“死”について「常に意識している」と答えた。