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「僕も家族も最悪死ぬことを覚悟している」ヨットで世界一周を目指す脱サラセーラーに、妻が出した“たった1つの約束ごと”
posted2022/06/25 11:03
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Anne beauge/ilsaimentlamer.com
少年は海に出た。
すでに小さなヨットで海は知っていたが、外洋に出るのはこれが初めて。風は強く、波の強さも見慣れた内海とはまた別物だった。
ひょっとしたら転覆するかもしれない。そう考えると手に汗が滲んだ。
「お父さん、僕のこと信じてる?」
「お前だったら大丈夫だ」
背中を押す父の言葉とぎゅっと握りしめたステアリングから伝わる振動が恐怖心以上に彼の冒険心をかき立てた。
全長6mほどのクルーザーで父と2人きりの船旅。千葉を出て、大島を経由して新島へ。2日がかりの航海は12歳の少年にとって大きな一歩になった。そして、それはのちの世界一周挑戦へと繋がっていく小さな一歩でもあった。
「あのクルージングが1つのきっかけかもしれません。小さなヨットから始めた技術でお父さんと2人で新島まで行けた。それがすごく達成感があって、楽しかった。外洋に行くって楽しい。今もその延長線上にいますね」
プロセーラー、鈴木晶友。少年は36歳になり、6月26日にモロッコを出発する世界一周ヨットレース『GLOBE40』でスタートを切ろうとしている。
世界各地の港に立ち寄りながら世界一周を目指す
『GLOBE40』とは、Class40という規格の全長12mのヨットに2人で乗り、世界一周を目指すレースである。総距離は地球一周を悠に超える5万5000km、レース期間は約9カ月間に及ぶ。モロッコを出てアフリカ大陸南端の喜望峰を回り、インド洋に浮かぶモーリシャス諸島へ。そこから冬の南半球を東へ進んで太平洋を渡った後、南米大陸をぐるっと北上して大西洋を横断してフランスでゴールを迎える。
「外洋ヨットレースには大きく分けて3つのクラスがあるんです。1人乗りの6.5mのヨットを使うのが『Mini6.5』、モータースポーツでいうとF3。私たちのクラスがF2で、白石康次郎さんが完走した世界で最も過酷と言われるヴァンデ・グローブに出場するクラスがF1のようなイメージでしょうか」
ただし、Class40は本来大西洋横断用に作られた艇であり、本来は世界一周するためのものではない。そのため全行程を8区間に分け、世界各地の港に立ち寄りながら艇の修理なども行いつつ前進する。そこにも挑戦がある。
各区間の順位をポイント化して争い、鈴木は自らが立ち上げたチーム『MILAI』のリーダーとして、パートナーを入れ替えながら全行程を走り切る。ゴールは来年3月という壮大なスケールだ。
スタート地点目前で思わぬアクシンデントが発生
実はすでにレースの一部は始まっており、鈴木はプロローグレースとして活動の拠点であり、ゴール地点でもあるフランス・ロリアンからスタート地点のモロッコ・タンジェまで艇を走らせた。