濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“絶対の寝技”はグレイシーの再来か…クレベル・コイケが“悪童”に完勝、RIZINフェザー級の中心は誰に?「アサクラともう一回、かな」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2022/05/27 17:00
5月5日の「RIZIN LANDMARK vol.3」にて萩原京平にバックチョークで勝利したクレベル・コイケ
萩原を絶望させた“圧倒的なフィニッシュ”
ゴングが鳴ると、萩原がアグレッシブに仕掛けた。コーナーを背負うクレベル。開始直後の後ろ回し蹴り、さらに右ストレートを被弾して出血も。サトシの「心配」が的中したのだ。
ただ、予想していたからこそ致命傷にはならなかったのだろう。ロープを背負うのも作戦だった。萩原は攻め急いだのかパンチが大振りになった。そこにタックル。萩原が立ち上がろうとするとバックを取る。その動きがおそろしいほど速く、スムーズだ。首に腕を回されると、萩原にできることはなかった。バックチョークのディフェンスなら何度となく練習してきた。それでも極められてしまう。1ラウンド1分37秒でのフィニッシュだった。
「先のことは考えられへん。考えたくない。今までやってきたことが間違いだったのかって考えさせられました」
そう語ったのは萩原。試合後の落ち込みようは見ていて切なくなるほどだった。それくらい、クレベルが圧倒的に強かったのだ。勝ったクレベルはRIZIN5連勝。フェザー級タイトル挑戦を確定させた。
グレイシー、ノゲイラを思い出させる「柔術への信仰」
サトシもクレベルも、今のMMAにおいては特異な存在と言っていい。「この相手に寝技に持ち込まれたら終わり」、逆に言えば「寝技になれば絶対」ということだ。まるで90年代にホイス・グレイシーやヒクソン・グレイシーが登場した時を思わせる。
“必殺技”としてのグラウンドテクニック。打撃で苦しんでも、最後には“極め”て逆転できるという柔術への信頼、信仰。PRIDEで活躍したアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラを思い出す人もいるのではないか。
今のMMAでは、どの選手も当たり前のこととして柔術を学んでいる。打撃、レスリングとともに必須のテクニックだからだ。普及にともない、柔術は“神秘の格闘技”ではなくなった。誰もが練習している。攻撃も防御も、プロなら一定以上のレベルにある。
そういう時代に、サトシとクレベルは一本勝ちの山を築く。グラウンドで下になるのは圧倒的に不利と言われるが、この2人は下になることを厭わない(もちろん彼らも打撃とレスリングの向上に余念がないのだが)。サブミッションへのディフェンス技術が行き渡っている今は上から殴るほうが有利なはずなのに、サトシとクレベルの寝技はそんな常識をも覆してしまう。