炎の一筆入魂BACK NUMBER
「三者凡退でもダメな球がある」首位カープのブルペンを支える元守護神・中崎翔太29歳の復活の軌跡と栗林良吏も見習う“姿勢”とは
text by
前原淳Jun Maehara
photograph bySankei Shimbun
posted2022/04/12 06:02
19年から右膝、右腕などに相次いで故障が発生し、不遇の時を過ごしてきた中崎。セットアッパーとして完全復活なるか
「ケガしている間もずっと休んでいたわけじゃない。ずっと良くなるよう継続していますし、足りないところ、外からみて気づいたことがあれば、トレーナーさんにメニューを組んでもらいながら常に改善してきました」
急激に何かが変わったわけではない。ひとつずつコツコツと。抑えとなった15年からケガからはい上がろうとした時間まで、すべての積み重ねによって、今がある。
「大きく変えることはやっていない。大きく変えても、そんなにいいことはない。ちょっとした微調整です」
足の上げる高さ、角度、重心の移動、踏み出す位置、踏み込みの仕方……。はたから見れば気づくことのない細部の調律を我慢強く、根気強く、必ず良くなると信じて繰り返してきたことで、ようやく実を結んだ。苦い経験も含め、それが今の中崎をつくっている。たとえ倒れたとしても、起き上がればいい。
6日の巨人戦の登板もそうだった。
1−0の8回、7回無失点の床田寛樹の後を受けたが、一死一塁から1番吉川尚輝に内角スライダーを右翼席に決勝の逆転2ランを運ばれた。もっとも警戒していたはずの長打を喫した。
「チームのためにしっかりとした結果を出さないといけない中で、今日みたいな投球をしてたらチームに申し訳ない。繰り返さないように、しっかりと集中して臨んでいきたい」
若手投手の見本として
敗戦の責任から背を向けようとはしない。翌7日の試合前練習、中継ぎ投手の誰よりも早くグラウンドに姿を見せた。通算364試合、20勝28敗115セーブ、70ホールドの経験は若い中継ぎ陣の生きた教材となる。
新守護神の栗林良吏は「見て学ぶことは大事だと思うので、練習の姿勢だとか、準備の仕方を見て学んでいきたい」と話していた。
セーブ数やホールド数以上に、28敗からはい上がってきた経験が何より大きい。調整法や技術を磨く姿勢、強い精神力だけでなく、気持ちの切り替え法などすべてが見本となる。
「12年目ですが、まだ完璧な投球をしたことがない。毎日が反省。三者凡退で抑えた日でも、ダメな球はある。しっかり練習して、自分もできるんだという自信をつけていくことが大事。マウンドに上がって、どうしようと考えている投手はいない。僕もそう。絶対にできる、抑えられるんだと思ってマウンドに上がる。反省は、終わってから」
敗戦投手から2日後の8日阪神戦、甲子園のマウンドにはいつもと変わらない姿があった。同点の8回、きっちり3人で抑えて無失点で継投のバトンをつないだ。
常に最善を求めるリリーバーの立ち居振る舞いを若い中継ぎ陣が見つめている。タフなポジションをこなしながら、投球と姿で広島ブルペンを支えていく。
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