濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“落ちこぼれ”はWWEスーパースターに…KAIRIが明かしたスターダム帰還「まだやれる、やり残したことがある」《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/03/25 11:04
自身のフォットネスジムを構えるなど、ゆかりのある江の島でリラックスした表情を見せたKAIRI
転機となった事件「このままだとスターダムがなくなってしまう」
彼女にとってプロレスラーとしての転機になったのは「あの事件」だ。世IV虎(現・世志琥)と安川惡斗の試合が“ケンカマッチ”となり、安川が顔面を拳で殴りつけられ負傷。世IV虎は処分された後に引退という形で退団、安川も引退している。そんな状況で選手会長に就任したのがKAIRIだった。
「あの時は“このままだとスターダムがなくなってしまう”という不安がありました。団体を守りたいという気持ちが初めて出てきましたね。それには残った選手で一生懸命試合をして、誠意を見せていくしかないと。特に私は才能がないから、一生懸命やるしかない。誰よりも長い時間、練習すると決めて、パーソナルトレーニングも始めました。そうしているうちに赤いベルト(ワールド王座)を巻くチャンスが来たんです。巻きたいけど自分が巻くことはないんだろうなと思ってたベルトです」
苦しい時期のスターダムを守ってきたという自負がある。だからこそ、自分がアメリカに渡った後のスターダムを盛り上げてきた生え抜き選手たちの気持ちも分かるつもりだ。WWEでの経験から、移籍してきた人間の心情も理解できる。
「私自身が落ちこぼれだったから」
「新しい環境で頑張る、慣れない環境でものし上がる。そういう感覚も分かります。だからいろんな選手と試合がしたいんです。今、悩んでる若い選手とも。
“自分はこれができない”とか“あの選手はいいなぁ”みたいに悩むことって多いんですよ、選手は。特に今のスターダムは人数が多いですし。その気持ちも分かるんです、私自身が落ちこぼれだったから。同期で自分だけプロテストに落ちて再試験だったり、デビューしても全然うまくいかなかった。空回りしてるとかセンスがないと言われて。
自分はダメな人間、不器用で空回りしてみんなに迷惑かけて、いらない人間だと思ってたんです。でも人って変われるんですよ。覚醒する瞬間がある。悩んでいる選手にそれを伝えたい。試合をすることで“あなたもできるよ”って。人から何を言われても、自分の可能性をあきらめないでほしい」
宝城カイリでもカイリ・セインでもなく…
3月に入り、スターダム道場のリングで他の選手たちと練習をした。練習内容が昔と同じで「今も受け継がれてるんだな」と嬉しかったそうだ。久しぶりの受身とロープワークは少し痛かったが。
ブラジリアン柔術、キックボクシングの練習にも取り組み、新技を教わった。それぞれ師事したのは中井祐樹氏と前田憲作氏。ジャンルを代表する指導者だ。ジムの仕事は忙しく、毎日深夜3時まで。そんな中でもフィジカルトレーニングの時間は取っている。アメリカでは移動と試合の繰り返しだったから、自分の体とじっくり向き合うのも久しぶりだった。
「体の“声”を聞きながらトレーニングできてますね。アメリカでは食事も極端でタンパク質中心、糖質全カットとかやってたんですけど、それだと体脂肪は落ちてもメンタルによくなかった。イライラしやすくなるんですよ。今は栄養に関する知識も増えて、炭水化物も適度に摂りながらいいコンディションを作れてます」
宝城カイリでもカイリ・セインでもなくKAIRIとして、新たな自分で新しくなったスターダムでの新しいチャレンジ。コスチューム、トレードマークの舵輪も新しいものにするそうだ。
かつて所属していた頃とは、スターダムも大きく変わった。上場企業ブシロード傘下となり、選手が増え、ビッグマッチを頻繁に開催。そこにKAIRIが加わることで、さらに変化があるだろう。それもトップ戦線から若手まで、だ。そこからスターダムらしさも、スターダムに足りないものも浮き彫りになってくるはず。彼女が単なる“大物ゲスト”ではないからこそ、それが可能になるのだ。
(撮影=杉山拓也)
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