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「なぜ人はカズを見たくなるのか?」三浦知良55歳のJFL開幕戦でカメラマンが抱いた「スタジアムに足を運ばせること」への畏敬の念
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2022/03/20 11:02
55歳の三浦知良(鈴鹿ポイントゲッターズ)は3月13日のJFL開幕節にスタメン出場し、65分間プレー。アマラオが保持していたJFLの最年長出場記録(43歳9日)を大幅に更新した
一度は生で見てみたいスーパースター
開門を待つ人たちの会話を聞いていると、当然「俺なんかもう走れないもん」や「うちのお父さんよりも上」など、55歳という年齢でプレーし続けること自体への尊敬も多くあったが、単純にそれだけではないように思える。
いわゆる“スーパースター”だという理由も当然あるだろう。それまで見たことがなくても、一度は生で見てみたい、と思うほどの存在。全盛期を体感しているかどうかや、プレーしている姿を見たことがあるかどうかは関係ない。少し前のプロレスならば、アントニオ猪木やジャイアント馬場が地元の体育館にやってくるようなものだ。
見たことがないのにそう思わせるのは、偉大なパイオニアであり続けているからだ。
Jリーグブームを牽引した、というだけではない。今でこそカテゴリーを落とす移籍という選択肢は当たり前になっているが、2005年に38歳で横浜FCに加入したのもそのひとつだ。スター選手のJ2への移籍は、当時としては異例だった。同年秋にはオーストラリアAリーグのシドニーFCへ期限付き移籍で加わり、トヨタカップに替わって開催されるようになったクラブW杯に参戦。当時は開催国枠がなく、日本人選手としては初出場となった。豊田スタジアムで行われたシドニーFCvsデポルティーボ・サプリサには、その対戦カードからは想像がつかない2万8538人もの観客が集まった。
サッカーだけでなく、2011年にはフットサルにも参戦。1試合限定でFリーグのエスポラーダ北海道でプレーすると、翌2012年には日本代表にも選出されてW杯に出場。史上初のベスト16入りを達成しただけでなく、フットサルという言葉そのものを一般層に広めてみせた。当時の代表監督ミゲル・ロドリゴは「カズは人間の衣を着た神」と評し、「彼が成し遂げたこと(フットサルの存在を一般層に届ける)は通常では考えられない困難なこと」と果たした役割に敬意を表した。
「スタジアムに足を運ばせる」カズの振る舞いとは?
しかし、スーパースターだからといって、見てみたいと思って来た人が、実際の姿を目にして無条件で惹きつけられるわけではない。
練習でランニングをする時には必ず先頭を走ることが有名なように、カズは日常的に先駆者としての姿を見せる。
この日も例外ではなかった。
試合前のウォームアップでロンドをする時に最初に中に入り、入場すると「日本代表の頃からのルーティンだけど、それも自分のモチベーションに繋がる」という集合写真でのカウントダウンを大声で行った。ハーフタイム明けには真っ先にピッチに出てきてグラウンドをならす姿もあった。交代してベンチに戻ってからも、監督のように最前線まで出て声を飛ばし、味方のゴールには誰よりも早く、そして大きく喜んだ。