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「なぜ人はカズを見たくなるのか?」三浦知良55歳のJFL開幕戦でカメラマンが抱いた「スタジアムに足を運ばせること」への畏敬の念
posted2022/03/20 11:02
text by
原壮史Masashi Hara
photograph by
Masashi Hara
「なんかさあ、Jリーグが始まる前みたいだよ」
試合前、カズを追い続けているベテランカメラマンが観客席を眺めてこう言った。
冬の色をしたピッチや、客席からフィールドに足を放りだして腰かける座り方は、Jリーグでは見ることがなくなった光景だ。そして、それまでと全く違う客層で埋まったスタジアム。それらが30年以上前のことを思い起こさせたという。
「子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで僕の名前を呼んでくれた。すごく嬉しい」
試合後、カズはそのスタジアムの光景を思い出して頬を緩ませた。
幅広い年代が集まった“お祭り”のような開幕戦
この日の観客はサッカーフリークだけではなかった。横浜FCや懐かしいデザインの日本代表のユニフォームを纏ったファンももちろんいたが、それよりも圧倒的に、地元のお客さんが多かった。
三重県には、カズが加入した鈴鹿ポイントゲッターズとヴィアティン三重という2つのJFL所属チームがあるが、Jリーグのクラブはない。
小学校低学年くらいの子供を連れて家族全員で来た人たち、事前に完売してしまったというカズの背番号がプリントされた鈴鹿の派手なユニフォームをお揃いで着ている大学生くらいのカップル、部活のジャージを着ている地元の中学生、老夫婦……。“お祭り騒ぎ”とはまさにこのこと、と思うくらい、地元のお祭りのような客層がスタジアムに集まっていた。
さすが、と思わされると同時に、不思議でもあった。
日本代表の試合をテレビで見たことがある人はいるだろう。Jリーグを見たことがある人も、スタジアムでの生観戦に限定しなければ、それなりにいることだろう。しかし、カズのプレーを見たことがある人はこの中にどれくらいいるのだろうか? かつてヴェルディ川崎や日本代表でプレーしていた姿を知っている人は、この中にどれだけいるのだろうか? おそらく、決して多くはないはずだ。
それでも、みんなカズを見るためにスタジアムに集まった。
全席自由席だったこの日の試合は、メインスタンドが早々に満員となると、陸上トラックを囲む芝生席もどんどん埋まり、最終的には4620人もの観客を集めた。
なぜみんな、カズを見たいと思うのだろうか? なぜ、普段サッカーを見ない人や、かつてのカズの姿を知らない人が、カズを見たくなるのだろうか?