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210cm牧大晃18歳が熟考して決めた「大学入学前にVリーグ」バレー界の“暗黙の了解”に踏み込んだパナソニックの一歩
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2022/03/11 11:01
2月にパナソニックパンサーズに加入した牧大晃。4月からは筑波大にも進学する
大塚は、これまでBリーグの取り組みを羨ましい思いで見ていたという。
「バスケットボール部の同級生が、毎年冬に特別指定選手としてBリーグに行っていたんです。それを見て、『そういうことができる環境があるなんて、バスケっていいよな』と思っていました。すごくいい経験になる、という話をしていたので、『バレーもそういうのができたらいいのにな』と、大学に入ってからずっと思っていました」
大塚は、冬場に高いレベルを経験するには海外に行くしかないと考えていたが、教職課程をとっていることもありそれは難しい。そこで、「Vリーグでプレーできたら一番いいんですよね」と早稲田大の松井泰二監督に相談し、話が動き出した。
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ティリ監督も「学生の間に1年でも早くVリーグを経験することで、選手はより早くレベルアップできるし、そういう選手が加わることでチームもよくなる。その結果Vリーグのクオリティも上がる。全員にとってウィンウィンなチャレンジ」だと言う。
海外では大学に行かずにプロになる選手が多いが、ティリ監督はこう理解を示す。
「Vリーグも大学も両方できるのは素晴らしいこと。勉強することも大事だし、大学の卒業証明書があれば、将来バレーだけでなくいろいろな方向に仕事の幅が広がるでしょうから。それに、学生はここ(Vリーグ)ではプレッシャーなく楽しんでプレーできますが、大学に戻れば、ここで経験したことを同年代の選手たちに教えたいと考える。そういうところからリーダーシップが生まれるのです」
ルール整備は急務、戦力格差を危惧する声も
パナソニックが動いたことで、来季以降「3人枠」の使用を希望するチームや学生が増えるだろう。ただVリーグには、学生の登録に関する細かいルールがない。その点で他チームからの批判もある。今後、有望な学生を早い段階から高額で奪い合ったり、チーム間の戦力差が拡大するといったことを危惧する声もあり、Vリーグ機構によるルールやシステムの整備が必要だ。
例えば学生を登録する場合の給与。今回のパナソニックは、社内規定に則って給与を支払うことにしたが、今後、学生についてはリーグで給与額を統一する方法もある。
また、野球の「プロ野球志望届」のように、「Vリーグ志望届」のようなものを作ってはどうかというバレー関係者の意見もある。そのシーズンVリーグでプレーしたいと希望する高校3年生~大学3年生が志望届を提出するというもの。さらにその中から、前年度の下位チームが優先的にその年登録する学生を指名できれば、戦力の均衡化にもつなげられる。
南部GMは、「最初から全部うまくいくわけではないと思います。まずやってみて、問題が出てきたらその都度、改善していけばいい」と前進を続ける。
課題はあるが、日本バレーの強化や選手の選択肢を増やす上で、一歩前に踏み出した意味は大きい。
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