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「どん底を味わった」「もっと自分を信じていい」F1ルーキーの角田裕毅がレース人生最大の挫折を乗り越えた“ルーティーン”とは
posted2022/03/11 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images / Red Bull Content Pool
2021年7月、角田裕毅は自身と同様レッドブルのサポートを受けて、世界で活躍するアスリートのひとりであるスキージャンプの小林陵侑と対談を行なった。その中で、緊張を解くルーティーンについて、角田はこう応えた。
「レース前の20分前とかから音楽聴いて、ソファーに横たわってずっと深呼吸している。ずっと深呼吸して眠くなるくらいまで。そしたら力が抜けて、期待とか緊張をあまり感じなくなる」(「https://www.redbull.com/jp-ja/yuki-ryoyu-cross-talk」より)
そのことを8カ月後のいま尋ねられた角田は、こう言って笑った。
「自分を見失っていた時期の答えですね」
どういうことなのか。
ルーキーゆえの過信と自信喪失
「F1にステップアップする前のF2まで、僕には違うルーティーンがあったんです。それは自然にやっていたことで、ルーティーンとして意識してやっていたことじゃなかったんです」
それは「セッションが始まる直前に、自分の部屋で自分が思う理想的なラップをシミュレーションすること」だった。
無欲で臨んだ昨年の開幕戦で、角田は日本人として初めてF1初戦で入賞する華々しいデビューを飾った。周囲から期待され始めた角田だったが、自分の中に“欲"が生まれ、何の根拠もなく表彰台に上がることを考えるようになっていた。
過信して迎えた2戦目。角田は予選で大きなクラッシュを犯し、自信を失う。同じ失敗を繰り返したくないという思いから、無意識にやっていたルーティーンをやめ、どうすればクラッシュしないようになるかを優先した別のルーティーンを意識的に行なった。
だが、角田はその後もモナコGP、アゼルバイジャンGP、フランスGPとクラッシュを繰り返した。そのたびに角田はルーティーンを変えた。音楽を聴くというのは、まさに試行錯誤していたころの話だった。
そんなとき、角田の前に現れたのが、イタリアに引っ越してきた角田のために、チームが用意したイタリア人のトレーナーだった。