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文武両道がイタリアで!? インテル “期待の星” 入団で、両親「高卒資格のサポートは?」 本人「今の若者は自分で考える力がないと…」
posted2022/03/07 11:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Getty Images
カルチョの国でスポーツと教育はどう相関しているのか
「私の生徒がインテルに行くことになったわ!」
5年前の初夏、帰宅した妻が開口一番、興奮気味に言ってきた。彼女はイタリア中部の田舎町で公立中学の教諭をしている。
担任クラスにいたロレンツォ・ペスケトーラという少年は、古豪ペスカーラの育成部門が鍛えた左ウイングで、2017年夏の中学卒業と同時に移籍金80万ユーロでインテルから引き抜かれた。
年代別イタリア代表候補でもあったから、逸材であることは間違いなかった。
妻はサッカーにあまり明るくない。しかし、事ある毎にロレンツォ君について強調していたのは、彼がいかに模範的な生徒かということだった。真面目で成績優秀、クラスメイトたちの信頼も厚い。担任目線でいえば、絵に描いたような優等生である。
ここで、ふと興味が湧いた。
サッカーに教育は必要なのか。カルチョの国でスポーツと教育はどう相関しているのか。
「運動会」も「合唱コンクール」もない
驚くべきことだが、小学校から高校にいたるまで、イタリアの学校にはあらゆる「競争」が存在しない。
どういうことかというと、例えば定期試験や模擬試験で、学生は“学年で○番、全国で○番”といった順位を付けられることがない。
成績は個人の絶対評価だから、「通知表の『5』は○人まで」というクラス毎の相対的な制限もない。廊下に順位表を貼り出すのは不必要な屈辱感を植え付けるとして忌避され、個人情報保護の観点からも御法度だ。
競い合うことがないから「運動会」も「合唱コンクール」もない(修学旅行はある)。対外的にも「学校単位での対抗戦」という概念がないから、いわゆる「全国高等学校○○選手権」というトーナメント大会もない。
学校は主要5科目を学ぶところで、体育や音楽の授業も申し訳程度にあるにはあるが、カリキュラムのそれは軽度の運動や理念を学ぶ機会にすぎない。
国勢調査で人口に占める15歳以下の割合を調べてみると、日本は11.9%(2021年)で世界ワースト。イタリアも13.3%(2018年)でワースト3位。今や2つの国は世界最低水準で子供の少ない国だ。