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「19歳の藤井聡太五冠」のスゴさを棋士目線で説明すると… 「終盤で強い体幹」と事実上の「香落ち指し込み」とは《王将戦》
posted2022/02/16 11:00
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
Kyodo News
第71期ALSOK杯王将戦七番勝負は、渡辺王将(名人・棋王を合わせて三冠)に藤井竜王(王位・叡王・棋聖を合わせて四冠)が挑戦した。三冠と四冠の対決は、まさに棋界の頂上決戦だった。
渡辺は棋聖戦五番勝負(1日制・持ち時間は各4時間)で藤井に2年連続で敗退したが、王将戦(2日制・持ち時間は各8時間)は戦い慣れている舞台だ。王将戦で3連覇(通算5期)している実力を発揮するものと予想された。
しかし、渡辺は激闘が繰り広げられた第1局と第3局の終盤の局面で、やっと得た勝機を逃して敗れたのが響いた。第4局も懸命に頑張ったが、中盤の勝負所の局面で疑問手を指し、勝負の悪い流れを食い止められなかった。
藤井竜王は渡辺王将に4連勝し、王将のタイトルを初めて獲得した。19歳6カ月での「五冠」取得は、羽生善治九段が1993年に打ち立てた22歳10カ月の最年少記録を、3年以上も更新した。
渡辺名人「もうちょっと何とかしたかったんですけど…」
渡辺は終局後、「残念というのもちょっと違うし……。もうちょっと何とかしたかったんですけど……」と語った。最善を尽くして指しているのに、藤井にどうしても勝てない無念さが表われている。せめて1勝して恒例の「勝利者コスプレ」をしたかった、という次元の話ではない。
それにしても、現役最強で冬のタイトル戦に強いという意味から「魔王」や「冬将軍」の異名がある渡辺に対して、藤井がタイトルを初めて獲得した2020年の棋聖戦第4局に続き、2021年の初防衛戦の棋聖戦、今年の王将戦と、タイトル戦の対局で渡辺に8連勝したことに驚くばかりだ。対戦成績は藤井の12勝2敗となった。
過去の例では、1950年代に大山康晴(十五世名人)が升田幸三(実力制第四代名人)にタイトル戦で何回も敗退を重ね、1970年代に加藤一二三(九段)が中原誠(十六世名人)に1勝20敗と大きく負け越した。昨年6月時点では、藤井が豊島将之(九段)に1勝7敗と負け越していた。
しかしその後、大山、加藤、藤井は苦手を克服して「V字回復」を果たした。渡辺にもそれを期待したい。