スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
なぜ日本人は「アメフト史上最高の選手」を知らないのか? トム・ブレイディ44歳の引退で考えた「メディアが日本人ばかり報道しがち」問題
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2022/02/13 11:00
今季限りでの引退を表明したトム・ブレイディ(44歳)。2020年にタンパベイ・バッカニアーズに移籍。昨年、自身7度目のスーパーボウル制覇を果たした
ヘッドコーチのビル・ベリチックに見いだされ、なんと2年目にチームをスーパーボウル優勝へと導いたのだ。2001年は「9・11同時多発テロ事件」があり、アメリカは騒然としていたが、ブレイディは「アメリカンドリーム」を体現した。
それにしても、ドラフトの下位指名選手がなぜ抜擢されたのか?
20世紀最高のジャーナリスト、デイビッド・ハルバースタムはベリチックのことを書いた”The Education of a Coach”のなかで、ブレイディのことを活写する。
このルーキーはスナップされたボールを受けたあと、視たものから得られる「情報処理能力」に優れていた。
ブレイディはフィールド全体の状況を瞬時に判断し、適切なターゲットに投げる力を有していた。これはチームのベテランQBもかなわなかった。
自らNFLでプレーした経験のないベリチックは(彼の父親は海軍士官学校のコーチで、ベリチックは子どもの頃から父親の映像分析を手伝っていた)、ドラフトの「順位バイアス」から無縁だったし、世論も気にしなかった(今だってそう)。もしも、ブレイディが他のチームに入っていたら、指名順位に対する偏見から、ブレイディは最初の数年は陽の目を見なかった可能性も否定できない。
こうした逆境からの逆転のストーリーを、メディアは好んだ。NFLの世界にとどまらず、ブレイディは”Cultural Icon”、アメリカカルチャーのなかで重要な位置を占めてきた。
なぜ、日本ではそれほど知名度がないのか?
ここから論考は変わる。
これだけのアメリカのスターであるにもかかわらず、なぜ、日本ではそれほど知名度がないのか? ということである。
これは1960年代に生まれた世代にとっては、意外なことなのだ。
なぜなら、私たちの世代は1980年から1990年代にかけて、ジョー・モンタナが大活躍し、日本のCMにも出ていたことを記憶しているからだ。ちなみにそのCMとは、三菱電機の家庭用のビデオカメラで、
「どんなモンタナ」
「ジョー況判断」
とセリフまで言っていた(ホイチョイ・プロダクションズの『気まぐれコンセプト』では、アメリカ人の俳優、アスリートが話すコピーについて揶揄している回があったと記憶する。自分が話した日本語の意味を知り、悶絶するといったような)。
TBS、日テレ…地上波でNFLが見られた時代
なぜ、これだけの人気を博していたかというと、1970年代から1990年代にかけて、日本ではNFLが地上波で中継されていたことが大きいと思う。