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なぜ日本人は「アメフト史上最高の選手」を知らないのか? トム・ブレイディ44歳の引退で考えた「メディアが日本人ばかり報道しがち」問題
posted2022/02/13 11:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Getty Images
ロサンゼルス・ラムズ対シンシナティ・ベンガルズの第56回スーパーボウルは、日本ではバレンタインデー、2月14日の午前中に行われるが、2月に入ってから私にとってのビッグニュースはトム・ブレイディの引退だった。
トム・ブレイディ、44歳。
21世紀を代表するクォーターバック(QB)である。
ブレイディは2000年にニューイングランド・ペイトリオッツに入団し、2020年にタンパベイ・バッカニアーズに移籍、そしてこのほど引退を発表した。22年間の競技生活で、これだけの成績を残している。
・スーパーボウル制覇 7回
・スーパーボウルMVP 5回
・シーズンMVP 3回
天晴れというしかない。
NFLでも史上最高のプレイヤーのひとり……いや、史上最高のプレイヤーかもしれないと私は思っている。
実は昨年、かつてほどとは言えないが、今もそれなりに影響を持つ『スポーツ・イラストレイテッド』の「スポーツ・パーソン・オブ・ジ・イヤー」には、私はてっきり大谷翔平が選ばれると思っていた。大谷は超弩級のインパクトをアメリカ社会にもたらしたからである。
ところが、選ばれたのはペイトリオッツからバッカニアーズに移籍してすぐ、いきなりスーパーボウル制覇をしたブレイディだった(これにはいろいろと伏線がある。スーパーボウルの50年を超える歴史の中で、開催地のチームが優勝したことはなかったが、そのジンクスを軽々と破ってしまったとか)。
ドラフト“199番目”の男の逆転ストーリー
ブレイディはアメリカのスポーツ史に残るスーパースターだが、2000年にドラフトで指名されたときは、6巡目で全体199番目の指名にしか過ぎなかった。
私はアメリカのカレッジフットボールのファンなので、ミシガン大学時代からブレイディのことをチェイスしていたが、彼は大学時代は不遇だった。ミシガンには同時期に、ドリュー・ヘンソンというQBがいて、ヘンソンは野球のニューヨーク・ヤンキースに3巡目で指名された、ちょっとしたポップスターだった。
ミシガンは人気大学だから、世論がおおいに影響する。1998年は第1Qにブレイディが先発し、第2Qをヘンソンがプレーして、出来が良かった方が後半に出るというパターンが続いた。まったくもって、ブレイディはリスペクトされていなかった(ヘンソンはその後、ヤンキースで8試合プレーし、NFLへ。両方のスポーツで芽が出なかった)。
ところが、ブレイディがペイトリオッツに入団すると、運命が逆転する。