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なぜ日本人は「アメフト史上最高の選手」を知らないのか? トム・ブレイディ44歳の引退で考えた「メディアが日本人ばかり報道しがち」問題
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2022/02/13 11:00
今季限りでの引退を表明したトム・ブレイディ(44歳)。2020年にタンパベイ・バッカニアーズに移籍。昨年、自身7度目のスーパーボウル制覇を果たした
1970年代は東京12チャンネル(いまのテレビ東京)、そして日本教育テレビ(いまのテレビ朝日)で放送され、この時期に見始めた人たちには(現在60歳前後)、黄金期を迎えていたマイアミ・ドルフィンズとピッツバーグ・スティーラーズのファンが多い。
その後、TBSが1978年からスーパーボウルを「月曜ロードショー」の枠で録画放送するなど、1988年までTBSが放送していた。
そして1988年のレギュラーシーズンからは、日本テレビが中継局となる。
アメフトについていえば、日本テレビは偉い。
いま、箱根駅伝が放送されている枠は、かつてはカレッジの「ローズボウル」が中継され(そのおかげでミシガンのファンになった)、そして今季からはNHKが撤退する一方で、日テレG+では『サンデーナイトフットボール』を毎週生中継。加えて、ハイライト番組「オードリーのNFL倶楽部」を作っている。
今年のディビジョナル・プレーオフ4試合は、ちょっと考えられないほどの「名作」ぞろいで、この試合を生中継で見られたのは本当に幸せだった。
そして今年は、生中継でスーパーボウルを見ようと思ったら、日テレG+の一択になった(「DAZN」など有料ネット視聴はできる)。
簡単にNFLの中継史を振り返ってみたが、かつてはモンタナの活躍が地上波で見られる機会が多く、しかも劇的な逆転劇を見せてくれたものだから、ニュース、新聞で目にすることが多かったのだ。
しかし、衛星放送の発達、多チャンネル化の時代を迎え、アメフトは地上波で見られる機会が減っていった。
ブレイディの活躍時期は、多チャンネル化の時代と合致している。
「海外で日本人がどうプレーしたか」を伝えるメディア
そしてもうひとつ考えられるのは、日本のメディアの問題だ。
多チャンネル化によって海外スポーツを視聴する機会が増えたことは、日本人アスリートが海外で活躍することにもつながったと思う。日本人メジャーリーガーは、そのほとんどがメジャーリーグ中継を見て、海外への移籍を現実のものとして捉えるようになった。
ところが、メディアは海外スポーツそのものを報じるのではなく、「海外で活躍する日本人報道」に偏っていった。
つまり、日本人が活躍するメジャーリーグ、そしてヨーロッパのサッカーが報道される機会は多くなったものの、それもリーグ戦やシーズンの順位よりも、「そこで日本人がどうプレーしたか」に力点が移っていった。
日本人選手がいないNFLは、どうしても隅に追いやられる。こうして、ブレイディの偉業は、NFLファンは別として広く伝えられることはなかった。
私としては、ブレイディの偉大な活躍を日本のスポーツファンにもシェアして欲しかったと思うばかりだが、メディアの発達によって、日本人はかえって視野が狭くなっているのではないか? と思ってしまうのである。