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ロックンロールとしてのベースボールBACK NUMBER
「♪SHINJO」「♪ハリー」と繰り返し熱唱、福本豊お気に入りの一曲… くるりの『野球』とカープ愛サク裂な歌詞を分析する
text by
スージー鈴木Suzie Suzuki
photograph byChung Sung-Jun/Getty Images
posted2022/01/29 17:01
長年にわたって日本のロックシーンを支えている「くるり」。野球愛も非常に熱い(2011年撮影)
「梨田→戸柱」の韻と、イチロー、大谷、ビッグボス登場
<8番>
・「梨田」:梨田昌孝
・「戸柱」:戸柱恭孝
・「屋舗」:屋鋪要
・「赤星」:赤星憲広
・「赤松」:赤松真人
・「福本」:福本豊(「走れ走れ福本」と歌われ、4回繰り返し)
ここは全体傾向が見えにくかった。梨田昌孝から始まるので「男前枠」かと思ったが(以下略)。なので、上手くないが【捕手と俊足枠】。戸柱恭孝は、曲を聴く限り「“なしだ”」→「と“ばしら”」の韻で選ばれたのだと思う(余談ながら“昌孝”と“恭孝”も韻)。極めて重要ポイントは「走れ走れ福本」の4回繰り返しだが、この点に関しては後述する。
<9番>
・「ICHIRO」:イチロー
・「ムネリン」:川崎宗則
・「稀哲」:森本稀哲
・「翔平」:大谷翔平
・「SHINJO」:新庄剛志(3回繰り返し)
曲名が『野球』だけに9番で終わる(いま気付いた)。ラストバッターは、既成の球界の概念にまったく囚われず、奇想天外なプレーをする【宇宙人枠】だ。ラスト3人はファイターズ勢。ラストのラストでのBIG BOSSは「宇宙人枠」の締めにふさわしい。
“2人の選手”に共通する自由な自我とは
全体を振り返って、まず思うことは、岸田繁という人の深い野球愛である。1976年生まれということなので、金田正一は言うまでもなく、王・長嶋・野村という「BIG3」の現役時代も知らないはずだが、彼らを尊重することで、この曲全体に品格を与えている。
また「宇宙人枠」(特に川崎宗則、森本稀哲あたり)に見られる、個性派プレイヤーへの偏愛にも、とても共感できる。衣笠祥雄や中村紀洋も入れたかったのではないか。
そして最大のポイントは「福本豊愛」だ。これに「金村義明愛」を加えてもいい。「走れ走れ福本」を4回も歌い込み、また「金村!」と絶叫しているのだから。
「福本豊愛」「金村義明愛」に見られるのは、やや大げさ・深読みで言えば、いま日本を覆い尽くす忖度や同調圧力の空気に決して屈しなそうな、自由な自我を持つ関西人選手への強いリスペクトだ(なお岸田繁も関西=京都人)。
福本豊については、「そんなもんもろたら、立ちション(ベン)もできなくなるわ」という理由で国民栄誉賞を拒否したというエピソードに、その自由な自我が十分に表れている。
また金村義明については、在日三世という出自をあっけらかんと表明した名著『在日魂』(講談社文庫)を、ぜひご一読されたい。
この、くるり『野球』を福本豊が聴いて気に入り、それがきっかけで福本と岸田繁がラジオで共演したという。経緯を確かめるために、私は福本のインスタグラムを検索してみた。すると、自己紹介欄にこう書かれてあった。
《阪急ブレーブス センター 1番 福本豊です。》
忖度や同調圧力どころか、「阪急ブレーブス」消滅という事実にも無縁に、こう、堂々と、悠々と自己紹介しているのだ。福本豊の本領を見たと思った。そして、この一文を見て、私は心の中で叫んだ。
――「走れ走れ福本!」
<桑田佳祐と『栄光の男』編に続く>