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15年前の創部で、甲子園スターもいないのに…社会人野球で台頭する“意外な”大学OB ある大学監督「即戦力になる選手は東都や六大学に行く」 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph bySankei Shimbun

posted2021/12/17 11:05

15年前の創部で、甲子園スターもいないのに…社会人野球で台頭する“意外な”大学OB ある大学監督「即戦力になる選手は東都や六大学に行く」<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

昨年の関東地区大学選手権に優勝した桐蔭横浜大。片山皓心(左下)は社会人のホンダに進み、1年目からエースに

「そのためには私自身が、野球部に対して、選手たちに対して、自分の私生活に対して、真摯に取り組んでいるかどうか。そこが大前提になります。監督、あんなこと言ってるけど、やってること、逆じゃないか……って思われたら、その上には何も構築できない」

 齊藤監督は、人間くさい方だと思っている。厳しそうに見えて、実は、正面から当たっていけば、意外と話せる人。昭和のおやじさんのような感覚だ。

「しかし、中には、人を斜めから見るような学生もいますよ。どうせオレなんかって思ってるようなやつ。そういうやつとは、とことん会話です。お前、誤解されること多くなかったか? 高校で、監督さんに怒られること多くなかったか? 今のままじゃ、お前が損して勿体ないよ。自分で思ってる以上に謙虚に行動してごらん、と。それでしばらく様子を見る。変わってきたな……と思ったら、『最近、変わってきたな。練習見ててわかるよ』って、こっちから歩み寄る。一方通行の上から目線ではなく、お互い納得ずくでやりたいじゃないですか」

「エースが欲しくても、2番手がウチに入ってきて…」

 人材が集まるのは、「運」によるところが大きいと、控えめに話す。

「エースが欲しくてお願いをして、2番手がウチに入ってきて、今でも社会人の主軸で投げている……なんてケースもあります。無名の選手たちがどうすればそんなに伸びるのか、訊かれることもありますけど、ひと言でいえば、好きにやらせてるから。これ、決して、放し飼いっていうことじゃないですよ」

 “強制”と“自由”。そういう表現で言い直してくれた。

「“強制”は、意識の部分です。たとえば、野球をナメないとか、世の中を甘く見ないとか、そういう部分は共通認識を持ってもらいます。逆に、野球技術については、“自由”です。こっちから、こう投げろとか、こう打てとか、決して言いません。その代わり、こうしたらどう?って、試しの提案はします。2週間、3週間、場合によっては1カ月、1カ月半続けてみて、合うか、合わないか、判断するのは本人。快適にプレーできるかどうか、分岐点はそこです」

今年のチームにも“無名の怪腕”が

 秋の公式戦が終わって、すでに始動している「桐蔭横浜大野球部2022カレンダー」。

 投手陣の軸の一人として、齊藤監督が期待するのは古謝樹投手(2年・180cm63kg・左投左打・湘南学院高)だ。

 去年の春先、桐蔭横浜大の新入部員が、スポーツ紙に発表された時、アッと思って、すぐ齊藤監督に電話したことがある。

 神奈川の県大会で、たまたまそのピッチングを見て、長い左腕をしなやかに連動させた腕の振りと、球持ちがよく、打者の手元でも回転の緩まない球質に、豊かな伸びしろを感じていた。

「良くなると思いますよ。やっぱり知ってたかぁ……」

 齊藤監督が朗らかに笑っていたのが、ついこのあいだの事のようだ。

 入学してから2年間。桐蔭学園高と、午前、午後、時間を分け合って使うグラウンドで、古謝投手の懸命の努力と、齊藤監督のたいへんな骨折りが、きっとあったはずだ。再来年は、真っ先にドラフト候補に挙がりそうな、たくましい本格派左腕に、間違いなく成長しつつある。

 そんな古謝投手もまた、いかにも「桐蔭横浜」に似合いの、神奈川県ではほとんど無名の快腕であった。

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