マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
“極寒だった”プロ野球トライアウト、現地記者の本音「(元巨人・山下航汰は)こんなもんじゃない」「なぜ声を出してプレーしないの?」
posted2021/12/13 17:02
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Sankei Shimbun
今年の「12球団合同トライアウト」は、西武ライオンズの本拠地である「メットライフドーム」で行われた。
新宿から、西武鉄道を2度乗り換えて小一時間。埼玉県所沢市のなかでも、市街地から離れた場所にある。
初冬の氷雨が間断なく降り続くあいにくの天気。所沢地方の予報で気温8℃、5~6mの北風も吹いて、体感温度は2、3度。
ブルペンで肩を作る投手たちが、投球の合間に、ボールを握る手に息を吹きかけて、指先の感覚をなんとか保とうとしている。
ここは冷えるんだ。
メットライフドームがまだ「西武ドーム」でもなく、屋根なしの「西武球場」だった頃、3月半ばの社会人野球の全国大会が、雪で中止になったことがある。
前日からの降雪予報に、ある出場チームが先発投手をエースから青森の高校出身の若い投手に変更して、試合に臨んだ。
「お前、雪の中で投げんの、慣れてるだろ……」
それが理由で突然指名されたその若手投手は、まだ社会人野球での実戦経験がほとんどなかったにもかかわらず、降りやまぬ雪の中で強豪チーム相手に大奮投。試合前半を無失点に抑えたところで、雪が「吹雪」に変わり、どれがボールだか雪だか、見分けがつかなくなったところで、無念のノーゲーム。
「金星」を取り逃がして出世のチャンスを失ってしまったその若手投手はその後、ほとんど登板機会に恵まれないまま、チームを去った。
スカウト「もともとファーム球場の予定だったんで…」
話が横道に逸れたが今年のトライアウトは、この天気の中でそれぞれの選手が、それぞれの「野球人生」を賭ける。
これだけ寒ければ、バッターだって、目一杯振るのは怖い。芯を外れた時のインパクトのしびれ具合は、「やっちまった者」にしかわからない。高校野球の3年目が木製バット使用の最後の年だった私は、打ち損じてビーンと痺れたままの手の平に、絶対折れた!と思って練習帰りに医者に飛び込んだ。しかしレントゲンでなんの異常もなかったことがある。