F1ピットストップBACK NUMBER
<3日徹夜に始まった挑戦>「過去に経験のない厳しい現実…」30年ぶり栄冠のホンダF1エンジニアが人目を憚らず涙に濡れたワケ
posted2021/12/15 17:03
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Masahiro Owari
人目を憚らず、男たちが泣いていた。
12月12日、F1最終戦アブダビGPでドライバーズタイトルを獲得した、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)を支えたホンダのスタッフたちだ。ホンダのタイトルは1991年のアイルトン・セナ(マクラーレン・ホンダ)以来、30年ぶりとなる。
現場でホンダの技術者たちを束ねてきた田辺豊治F1テクニカルディレクターは、アルファタウリでホンダのチーフエンジニアとして仕事してきた本橋正充を抱きしめ、泣いた。
「うれしかった。長年いろんなことを経験してきましたから。私がいまここでこうしていられるのも、HRD Sakura、HRD UK、ホンダ本社でF1活動を支えてくれているメンバー、そしてここにいる現場のメンバー、それはレッドブル・ホンダ側だけでなく、アルファタウリ・ホンダのメンバーも含めて、多くの人たちの努力と支えがあったから。皆さんに本当にありがとう。そして本当におめでとうという気持ちでいっぱいです」
ファイナルラップで逆転という劇的勝利の喜びが、ホンダのスタッフの感情を増幅させたことは間違いない。だが、たとえチャンピオンを逃していたとしても、おそらく彼らは同じように涙を流しただろう。
ホンダは1番じゃないとダメ
田辺はこう語る。
「ホンダがレースに参戦するにあたっては、いかなるカテゴリーにおいても1番を目指すという目標があります。しかし、91年以来タイトルから遠ざかっていました。特に第3期、私もその中にいましたが、まったく勝てなかった。ジェンソン・バトンのハンガリーGPでの優勝が唯一の勝利という形で第3期が終わり、今回のハイブリッド時代の挑戦では、復帰当初、これまで経験したことがないような厳しい現実に直面しました」
どんなに辛いことでも1番を目指すという目標があったからこそ、それを乗り越えるまで彼らは絶対にあきらめなかった。大切なことは1番になることよりも、1番を目指して努力を重ねてきた過程だと田辺は説く。