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プロ野球PRESSBACK NUMBER
カープ栗林良吏は「あの時から雰囲気が…」 社会人での転機と元DeNA細山田武史の指摘《大学でドラフト指名漏れ》
text by
間淳Jun Aida
photograph bySteph Chambers/Getty Images
posted2021/12/15 11:02
東京五輪で金メダルを獲得した栗林良吏。トヨタ自動車時代はどんな投手だったのか
「それまでは時々、力を抜いて痛打される場面がありました。でも、1球に対する思いが明らかに変わりました。勝負所の感覚もつかんだように見えました」
たった1球で、試合展開が変わる時がある。特にトーナメント戦の社会人では、その1球が敗退に直結することもある。もう一度プロを目指す栗林の覚悟は投球にもにじみ出ていた。
「あの時から、雰囲気が変わったのを覚えています」
もう1つの転機を挙げたのは、藤原航平監督と六埜雅司マネージャーだ。六埜マネージャーが思い返す。
「栗林がトヨタに加入して最初のキャンプでブルペンにいる時に、監督と話をしていました。あの時から、雰囲気が変わったのを覚えています」
藤原監督は「あの時」をはっきりと記憶していた。当時、プロ野球のスカウトが栗林のブルペン投球を見ていた。栗林は納得のいかない投球に首を振り、ため息をついていたという。スカウトが去ってから、藤原監督は栗林に近づき声をかけた。
「評価をするのは他人で、自分ではコントロールできない。いい球がいかない時はある。1球1球に一喜一憂するのではなく、自分自身でコントロールできることに集中した方がいいんじゃないか。都市対抗野球の決勝でも、プロの試合でも、マイナスの感情を表情や仕草に出しても良いことは何もない」
ベストな投球ができるように、自らの体と心をコントロールする。集中すべきは打者を打ち取る方法であって、他人の評価ではない。栗林はマウンド上で表情を変えなくなった。
「試合中の立ち振る舞いも練習の姿も、あの時から変わりました」
藤原監督は、トヨタ入団当初から栗林の能力を「プロレベル」と感じていた。そして、その能力を発揮するための心が鍛えられれば、プロで活躍できると確信していた。
助言を成長につなげるところは、栗林の長所でもある。藤原監督もチームメートも栗林の性格を問われると「謙虚で素直」と口をそろえる。
細山田からの指摘で“決め球スライダー封印”
チームの柱で、ドラフト候補で注目される存在であっても、分け隔てなく先輩にも後輩にもスタッフにも壁をつくらなかったという。その素直さは、決め球を捨てたことにも表れている。名城大時代、栗林はスライダーを得意にしていた。ところが、トヨタでは投げなくなった。
コーチ兼任の細山田武史捕手に「スライダーは直球のタイミングに合ってしまうから、プロでは通用しない。カーブを磨いた方がいい」と指摘されたからだった。横浜とソフトバンクでプレーしたプロを知る先輩からの言葉を自分の頭で整理し、スライダーを使わない決断をした。