東北大会から明治神宮大会までの練習試合では、佐々木はDHでの出場がほとんどだった。守備での足の負担を少しでも軽減させたい、という首脳陣の考えによるものだ。しかし生真面目な佐々木はチームメイトが守備についている間もベンチ横でトスバッティングを行なっていた。ミートを確認しながら何球も何球も。

　打撃でなんとかチームに貢献したい。その気持ちが痛いくらい伝わってきた。

©Yuki Suenaga

　疲労骨折では、時折、刺さるような痛みが出る。そのため痛み止めも服用していた。

「練習の時は痛み止めを飲んでいますが、眠くなったり、お腹が荒れるなどの副作用があるので試合中には服用していません。コンディショニング的にはベストではないのですが、怪我している中でも最大限のパフォーマンスをしていきたいです」

　成長期の大事な時期での強行出場には疑問符をつける人もいるだろう。しかし打撃だけではなく、精神的な面でもチームを引っ張る佐々木の存在はチームには不可欠だ。

怪我で高まった“打席での集中力”

　また最大の怪我の功名（と言っていいのか悩むところだが）は、痛みの影響で、打席で集中力が高まったことだろう。岩手の地区予選、県大会では大事な場面で力み、硬い表情で打席に入ることもあった。チームメイトや監督から「リラックス」と声がかかることも多かった。

　しかし明治神宮の広陵戦では、佐々木にはそんな言葉は必要なかった。そういった声をかけることも憚られるほどゾーンに入っていた。広陵戦の後半の3連続安打が佐々木の打者としての精神的な成長を物語っている。

　打席での気持ちの作り方、相手投手から主導権を奪い取る精神力。これは佐々木が今大会で得た最大の収穫ではないだろうか。　

©Yuki Suenaga

　準決勝の広陵戦後、チームはスタンドに挨拶をし、一礼をした。監督やコーチ、チームメイトが頭を上げても、佐々木と隣の金拓門の二人は深々と、とても深々とお辞儀をし続けた。

　顔を上げた2人の頬には涙の跡があった。

「今まで誰もやったことがないような新たな道を」

　出場が当確となっているセンバツで再び「岩手から日本一」の目標に挑むことになる。明治神宮大会で全国の好投手と対戦し、佐々木は再び自らの課題を見つけ、冬季練習で磨きをかけることだろう。

「今まで誰もやったことがないような新たな道を切り拓けるように頑張りたい」

　佐々木麟太郎。16歳。大海原に漕ぎ出した彼の航海が楽しみだ。