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父は監督「他校の野球部を勧めていた」…それでも“岩手の怪物”佐々木麟太郎が《花巻東進学》を強く希望したワケ 

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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photograph byYuki Suenaga

posted2021/11/30 11:03

父は監督「他校の野球部を勧めていた」…それでも“岩手の怪物”佐々木麟太郎が《花巻東進学》を強く希望したワケ<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

今大注目の高校生スラッガー・佐々木麟太郎。父は花巻東高監督の佐々木洋氏だ

 チームメイトが駆け寄り、佐々木は彼らの肩を借りてベンチに下がり、代走が出された。このままベンチに下がるんじゃないか。そう思った観客は少なくない。しかしチェンジの声が上がると佐々木はベンチを飛び出し、一塁の守備につくと拍手が起こった。

 痛みはあった。

 相手攻撃でバントやゴロの処理の際、痛そうな表情を浮かべる場面が何度もあった。にもかかわらず、死球以降の打席でも佐々木は安打を重ねる。

 そして9対6で迎えた8回表の第5打席、2アウト一、二塁、1打同点の場面。佐々木は高めのボールを強振。その球は高く、高く上がり、ライトスタンドに。同点となる3ランとなった。

 驚嘆、呆然、歓喜。さまざまな感情がベンチと観客席に渦巻いた。

 打者としての能力に加え、大事なところで打つ精神力、2アウトと相手投手に有利な場面ながら主導権を自分に引き寄せる力に驚かされた。

 大会前に「高校通算47本塁打」という言葉だけが一人歩きした。紅白戦での結果も通算に含まれる、と一部メディアによる間違った情報が出たこともあり、心ないコメントも多くあった。佐々木は「紅白戦は含まれていないんですけど……」と困ったような表情をしていたが、自らのスイングでそういったモヤモヤを振り払った。

 今大会2本目、公式戦12本、高校通算49本目。明治神宮大会での打率は6割を記録した。

 チームは準決勝で敗退したが、豪快なスイングと強烈なあたり、すさまじい打球音は我々の脳裏にいまだに鮮烈に残っている。

絶好調の裏で“怪我との闘い”もあった

 数字だけを見れば順調そうにみえるシーズンだが、この秋は怪我との戦いでもあった。

 岩手県大会中に、右手の薬指を骨折。東北大会中には左足脛の疲労骨折、また指の爪が剥がれるアクシデントもあった。右手の薬指骨折の際、佐々木洋監督はこう話していた。

「これまで打席で力みがちでしたが、骨折で力が入りづらい状況なので、力を抜いてスイングすることを覚えることができたと思う」 

 怪我の功名という表現があるが、マイナスの状況もプラスに転換させ、パフォーマンスに生かす術に驚かされた。その言葉通り、県大会後の練習試合ではホームランを量産。力まないスイングを習得した。

 しかし疲労骨折は厄介だったようだ。

【次ページ】 怪我をしても「なんとかチームに貢献したい」

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